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東京公園の盥のレビュー・感想・評価

東京公園(2011年製作の映画)
4.3
良かったです。三浦春馬の真っ直ぐな目。

青山真治は常に映画界における異物のような映画を撮り続けた監督だと思います。端的に言うと「変」なのです。しかも、わかりやすい「変」ではなく、さりげなくとても変な監督だと思います。

「東京公園」は小津風カットバックをはじめとする映画の様式にこだわるあまり、見る人によっては人物の心情を遠く感じて、居心地が悪いかもしれません(そこも小津っぽいのですが)。

リアリズムはこの映画において重要ではありません。厳格な様式こそが重要で、そのためには多少の不自然さは見過ごされます。そうした様式に対する(危うげな感じもする)挑戦は、三浦春馬と小西真奈美が対峙するシーンでその威力を炸裂させます。作品の魅力が凝縮されたすばらしいシーンです。

青山真治監督は小津にオマージュを捧げると同時に、あのシーンにおいて小津の表現を更新したのだと思います。更新が言いすぎなら、少なくとも新たな解釈を加えた。
自分は映画の歴史には疎いのですが、たぶん、これは映画史的にはものすごいことです。

ものすごいのですが……一般の観客にとっては正直、そんなことはどうでもいい。

三浦春馬と榮倉奈々と小西真奈美と染谷将太、四人の「泣けるドラマ」「いい話」「熱演」が見たいだけ。つまりはオーソドックスな人間ドラマです。そして「東京公園」は、観客のそんな期待には応えようとしません。

青山真治はどの作品においても一貫して、俗な要素を俗に、普通に撮ることができないという欠点を抱えています。その代わり独創的なアレンジを加えることにおいては天才的な才能を発揮します。「東京公園」の脚本をこのように撮れる監督は他にいません。

自分はそんな青山監督作品に違和感と魅力を両方感じながら、いつも観ています。

「東京公園」は、青山真治の魅力が比較的わかりやすい形になっている良作なので、青山真治初心者にもオススメです。
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