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クリーンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

クリーン(2004年製作の映画)
3.9
 ロックスターとして有名なリー(ジェームズ・ジョンストン)と、その妻でシンガーを夢見るエミリー(マギー・チャン)は契約をめぐるいざこざで、エミリーが家を空けた時にリーはドラッグの過剰摂取で死んでしまう。リーとエミリーの間にはジェイ(ジェームズ・デニス)という幼い息子がいるが、ドラッグ中毒で扶養能力のない夫婦は、リーの父母に息子を預けているのだった。愛する夫の最後の時を看取ることが出来なかった妻のバッグからはヘロインが見つかり、エミリーは半年間刑務所に収監される。出所後、心機一転のためカナダからフランスへ移り住むが、なかなかやりたい仕事が見つからず、息子にも会えず自暴自棄に暮れる。今作を最も特徴付けているのは、すれ違いである。夫の最後の瞬間にはかけつけることすら出来ず、信頼しているミュージシャンにも友人にも主人公はなかなか会ない。そんな主人公の絶望を映画は執拗に繰り返す。トリッキーに手紙を送る場面に象徴されるように、映画の前半部分ではすんでのところまで行くのになかなか再会出来ない。挙げ句の果てには週末だけの約束で、息子との再会に胸躍らせる主人公だが、息子にパリでの再会を拒絶されてしまう。

 それが後半部分には良く言えば運良く、悪く言えばご都合主義的にどんどん再会していく。ベアトリス・ダルともジャンヌ・バリバールともレティシア・スピギャレリとも会い、一旦は息子の拒否反応に絶望し、リーの父親の元を衝動的に離れた主人公だったがそこで思い止まり、引き返すと運良くリーの父親をもう一度見つける。この映画に登場する女性たちは本当に強くて逞しい。ベアトリス・ダルともジャンヌ・バリバールもレティシア・スピギャレリも、いま生を終えようとしているマーサ・ヘンリーもそれぞれ力強く今を生きる。例外的に主人公であるマギー・チャンに対しては、どこか突き放したような態度で自立を促す。手持ちカメラで彼女の背中を追いながら、時に冷めた目でヒロインを見つめながら、対象者と見守る側の微妙な距離感に何度も息が詰まりそうになった。それと共に、子供を散々放ったらかしにしておきながら、夫がいなくなった途端、息子に愛情を注ごうとする主人公の身勝手さに反感を覚える人もいるだろう。しかも翌日昼間までの義理の父親との子供に関する約束を破り、2人で勝手にアメリカに行こうとしている最低な母親には憤りすら感じる。クライマックスで彼女のこれから選ぶ道が私生活ともオーバーラップして映ったとき、アサイヤスとマギー・チャンの夫婦関係にも終止符が打たれ、映画は幕を閉じる。
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