mohedshot

果しなき欲望のmohedshotのレビュー・感想・評価

果しなき欲望(1958年製作の映画)
4.0
 人々が極貧と世知辛さの中を己の荒んだ嗅覚に頼って生きてゆく、そんな戦後間もない頃。戦争末期のドサクサに軍が隠匿したと思しき、当時の末端価格にして六千万円分ものモルヒネの噂話を内に秘め、十年後の再会を果たした何やら後ろ暗い得体の知れぬ輩たち。朧げな噂話が記された地図を手に、街の薄汚れた界隈を死物狂いで駆け回り、ついにとある長屋の地下にその在り処を突き止めるが。欲に塗れた輩たちの十年来の一獲千金への夢と狂気が醜悪と滑稽の極みに爆発する、どん底の人間模様とその鮮烈なダイナミズム。この世は地べたの上も下も、欲のブタと金の亡者が蠢く地獄だから、嵐が吹こうと、街が壊れようと、泥まみれで最後の最後まで食らいついた悪党が笑う、のか?

自分は今村作品はうなぎと、赤い橋の下のぬるい水しか見たことがない、低レベルな映画ファンだが、最初期にあたるこの作品もまた、金や性への欲望と執着という人間の根源に焦点を当てた、滑稽で痛快な箱庭的群像劇であった。深淵なる人間の中心を終生覗き続けた巨匠について、三作品のみで語ることは当然不可能だ。しかし、俳優陣の世を呪い腐ったドスとキレのあるセリフ回しと、正に怪演に相応しい狂気を孕んだ演技からも、現代とは明らかに違う、殺気だった死に物狂いの生々しい生が確実に伝わってくる。特に、嵐が吹き荒ぶ、一帯に立ち退きの期限が迫る夜の町の片隅のその足下で、醜悪な者たちのむき出しの裏切り合いが繰り広げられるまさにクライマックスにかけては、圧巻と呼ぶにふさわしい。渡辺美佐子の艶とドスの効いた極道な演技が特に素晴らしく、やはり長門裕之は桑田佳祐だ。
mohedshot

mohedshot