櫻

プールの櫻のレビュー・感想・評価

プール(2009年製作の映画)
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せわしなく過ぎていこうとする日常を生きているうちに、いつしか脳内にうるさく聞こえるようになった秒針がきっかり毎秒を刻む音。そうせざるをえないという観念に凝り固まって、自分が息苦しいことに気がつかなくなる感覚を、チェンマイのやわらかな日差しや風はほどいていく。うるさかった秒針の音もだんだんとテンポが遅くなって、すっかり遠くにいってしまったようだった。ちいさくて狭いところばかりを見て、縮こまってけわしくなった表情もやわらいでいく。わたしはこんなにやわらかくて自由だったのだと、その三日月のかたちになった口元が物語る。自分が何がしたいのかわからなくなっても、わたし自身のふかい場所はもうわかっていることのほうが多い。年々自分が在るべき場所に近づいていくような気がしている。わたしとはほんとうはなんなのだろうか。それは最期までわからなくても、わたしは自然とふかく呼吸ができる場所に向かっているのだった。幼いわたしが知ったらきっと、よかったねと言ってくれそうな気がするよ。
櫻