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とまどいのakrutmのレビュー・感想・評価

とまどい(1995年製作の映画)
4.0
初老の男性と若い女性がお互いに次第に惹かれていく様子を、二人の心理の微妙な変化とともに落ち着いた雰囲気で描いた、クロード・ソーテ監督の遺作となる恋愛映画。前作の『愛を弾く女』に続いて、主役の女性ネリーをエマニュエル・ベアールが好演している。一方、初老の男性アルノー氏を演じるミッシェル・セローの演技も素晴らしく、本作の演技で史上最多となる3回目のセザール賞主演男優賞を受賞している。

私は男性(さらにネリーよりもアルノー氏に近い年齢)なので、アルノー氏の心情はよく理解することができる。年齢に関係なく素敵な女性を好きになることはあるし、自分のことを好きになってほしいとも思う。いつまで経っても男性には子供っぽい部分があり、恋愛において自分の思いどおりにならないと、年甲斐もなくそのことを表面に出してしまう。ネリーが他の男性(出版社のヴァンサン、ジャン=ユーグ・アングラードがとても若く見える)と付き合っていることを知って不機嫌になり、相手に当たってしまうアルノー氏のシーンなどは、そういう心情がうまく表現されている。もしかすると、このキャラにクロード・ソーテ監督自身を反映させているのかもしれない。

一方のネリーも、仕事に就かずにぶらぶらしていた夫が自分と別れてから立ち直った姿を見て、男性と良好な関係を築く自信をなくしてしまい、次第にアルノー氏に惹かれていく。女性はそういう心情を簡単に表面には出さないが、映画の後半になると次第にそうなっていく。彼の家に泊めてもらったネリーが寝ている姿をアルノー氏が眺めるシーンなどは印象的。こういうプロットの一部は、川端康成の『眠れる美女』にインスパイアされているそうである。

ラストシーンの余韻も良い。個人的には、渡された原稿にアルノー氏の本心がメッセージとして書かれていたのではないかと思っている。性愛とは異なる男女の大人の恋愛の味わいたい人にはオススメの映画であろう。
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