ポルりん

サマーウォーズのポルりんのネタバレレビュー・内容・結末

サマーウォーズ(2009年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

■ 概要

『時をかける少女』の細田守監督が、同作に続いて脚本・奥寺佐渡子、キャラクターデザイン・貞本義行とともに描くオリジナル長編アニメーション。


細田守監督は、作品のメインとなっている舞台や題材を、自分の実体験したものがベースになっている。


『おおかみこどもの雨と雪』では、奥さんが出産したことを受けて「母の子育て」がテーマとなり、『バケモノの子』では、その自分の子供が成長したことに合わせて「父と子の関係」をテーマに掲げられている。

そして本作では、「家族の繋がり」がテーマに掲げられた。


細田守監督は、自身の結婚が決まり、将来の妻となる女性の実家へと挨拶に行った。

初めて出逢ったのに、末永く親戚になる人達。

そして、その人たちから語られるバックグラウンド。


これらの不思議な感覚を誇張してアレンジしたの作品が、本作の「サマーウォーズ」となっている。

そう・・・本作の主人公である健二がヒロインである夏希の実家に行き、個性的な人々との出逢い。

これらは細田守監督の実体験をアレンジしたものだったのだ。



■ あらすじ

『数学が得意だが気弱な高校2年生の健二は、憧れの先輩・夏希に頼まれ、夏休みの間、彼女の実家で夏希のフィアンセとして過ごすことに。
そんな時、健二はネット上の仮想空間OZで起きた事件に巻き込まれ、その影響が現実世界にも波及。
夏希の一家ともども、世界の危機に立ち向かう。』



■ 寸評


細田守監督の作品は、ストーリー構成がシンプルなものが多いが、本作の例にもれずシンプルであり「田舎の大家族が世界を救う」とわずか12文字で説明できる。

ハリウッドを代表するエンターテイメント系の映画では「良い映画の条件は名刺の裏側にあらすじが書けること」。

言葉は短いほど貫通力が強くなり、視聴者に鋭く刺さるのだ。


友人などに


友人「どんな映画なの??」


と聞かれても直ぐに答えられる。

そして中身は決して軽くなく重厚。

これが娯楽映画の真髄なのである。


細田守監督の場合、『時をかける少女』まではこれが上手く出来ていたと思う。

特に、細田守監督が初監督を務めた作品『デジモンアドベンチャー』は震え上がるほど素晴らしい作品であった。

だが、本作の『サマーウォーズ』以降は、作品の質が作れば作るほど低下しているように思える。

これは、細田守監督が原案や脚本に携わってからである。


『時をかける少女』は奥寺佐渡子が単独で脚本を担当しているが、本作『サマーウォーズ』では、

原案:細田守

脚本:奥寺佐渡子

となっている。


そして、『おおかみこどもの雨と雪』では


原案:細田守

脚本:細田守・奥寺佐渡子



『バケモノの子』では、


原案:細田守

脚本:細田守


となっており、細田守監督が作品の原案や脚本に携わるごとに質が低下し、ツッコミどころが満載になっていく。


演出に関しては、作れば作るほど「細田マジック」と言われるような素晴らしい技法が向上しており、テーマ性や物語全体の構成に関しては、概ね評価できる。

個人的には他人に脚本を任せて欲しいのだが・・・。



■ 演出(アニメーション)


本作の演出に関しては誠に素晴らしい!!


仮想空間世界OZも魅力的なデザインに仕上がっており、CGの使い方もかなり上手い!!

息をもつかせぬスピード感あふれるアクション、柔軟でリアリティのある格闘シーン。

これら独特の「演出のワザ」が前面に出て、エッジの利いた切れ鋭くアニメーションを観れば観るほど、気持ちが高揚していく。


田舎の旧家の細部にわたる描写もしっかりと描いている。

大きく外に開かれた和室の広間。

ガラス戸も、襖も障子もない、開け放たれた縁側から、夏の風が静かに吹き抜ける描写。

そして、旧家といういかめしいイメージを裏切るような、開放的なこの空間。

観ているだけで、どこかしらノスタルジックな気分にさせてくれる素晴らしい描写である。



そして、モノローグや説明セリフなので、状況を説明せずに、アニメーションを見ただけでキャラクターの心情や設定などが視聴者にダイレクトに伝わるようになっている。


例えば、物語冒頭で連戦連勝するキング・カズマの強さを示すのシーン。

下手な作品の場合は、こういったシーンで主人公やモブなどに


主人公orモブ「流石キング・カズマだ・・・強いな・・・。」


といったセリフで説明させる。

このセリフを入れると確かに分かりやすいのかもしれないが、映像を見ていれば強いかどうかは説明をしなくても分かるはずだ。

映像を観れば分かるのに、わざわざ明示的な情報を出すと、作為の察知によって没入感が損なわれてしまう。

こういった余計なセリフを言わず、映像だけで視聴者に伝える技術は流石である。

しかも、健二が佳主馬と出逢ったとき、佳主馬が上から目線というのも即時了解できるし、その説得力もある。

また、アバターとのギャップふくめてキャラが印象に刻まれるようにもなっている。



東京から遠くの田舎に移動したという演出も素晴らしい。

東京から田舎に近づくにつれ、スピード感、内装などが劣化していき、画面内に同時に映る人数や人同士の距離感も変化する。

いちいち説明しなくても、映像を観るだけで「東京から遠い田舎に来た」ことが分かる演出となっている。


こういった情報をモノローグや説明セリフで伝えず、映像のみで伝えると違和感がなく効率よく設定を伝えることが出来る。

この頃はこういった技術にも長けていたと思うのだが・・・。


ただ演出面で唯一気になったのが、佳主馬がアバターをキーボードで操作していた点・・・。

OZのアバターをどういった操作方法で動作させているかは分からないが、一応は対戦しているのだがら格ゲーに近い操作方法だと思う。

普通に考えて、キーボードで格ゲーってかなり難しくないか??

勝手なイメージだと、世界トップクラスのプロゲーマーって、格ゲーでアーケードスティック・・・もしくはコントローラーを使って、キャラクターを操作してると思う。

シミュレーションゲームなどは、よくキーボードを使ってるイメージあるけどさ・・・あれは違うよね・・・。


個人的には、キャラクターをキーボードで操作するのではなく、アーケードスティックなどで操作していたら、違和感なく入り込めたと思うのだが・・・。




■ 設定


・OZ

「電気、ガス、水道、交通、衛生、政府、経済、医療、娯楽など様々な分野を世界規模で統括管理した仮想世界。

また、世界中の人々が集い、楽しむことができるインターネット上の仮想世界でもある。

人々は自分の分身となるキャラ「アバター」を設定して現実世界と変わらない生活をネット上で送ることができる。

アバターが盗まれる、という事態が起らないよう、個人情報はOZの世界一高度なセキュリティで厳重に守られています。」



こういった現代にも直結するようなアイデアは好感が持てるのだが、セキュリティ面で少々違和感が・・・。

説明にもあるように、OZって世界一高度なセキュリティを使ってるんだよね??

そのセキュリティをパスワード一つで解除出来るって・・・あまりにも穴だらけじゃないか??

セキュリティ解除すれば、銀行や行政機関を自由自在に動かせるんだろ??

それどころか大統領のアカウント乗っ取れば、核攻撃すら出来る。

そんな最重要なセキュリティをパスワード一つで解除出来るって・・・。

流石に無理があると思うのだが・・・。


しかも端末をいじってるだけのバイトに、OZ本部棟をまるごと改造されてる始末だし・・・。

というか、こんなとんでもない事件が起きているのに、運営は何をしているのだろうか・・・。

そういった描写の一つくらい入れた方がいいと思うのだが・・・。


そういや、本作に登場するキャラクター達は、アカウントのことを自分の命だと認識している。

にも関わらず、置き電話の子機から簡単にアカウントを作成しているのだ。

命って軽いな・・・。



■ シナリオ


先程も書いたが、本作のテーマ性や物語全体の構成に関しては、概ね評価できる。


1.ネット上の仮想現実と現実を、そして都会と田舎をつなぐことでリアリティーを生み出そうという創意工夫。

2.佳主馬と健二の覚醒する過程。

3.事件を解決するのが特殊技能をもったヒーローではなく、陣内家という田舎の大家族。

4.花札勝負で世界中が一体となって巨大な敵に挑む瞬間のカタルシス。

5.何を使って人がつながっているのか大切なのではなく、人が人を思ってつながれること自体が、社会や人にとって最も大切なことだと考えさせてくれる。


などといった好意的に思える部分も存在する。

特に、2と3と4はかなり好印象である。


13歳にして世界的チャンピオンでありながら、了見の狭かった佳主馬の前に、泣き出すほど強大な敵に遭遇する。

そんな強大な敵と大勢の人と知恵を出し合って倒す。

ベタだが素晴らしいシーンだ。


そして、草食系で頼りなかった主人公の健二。

自分が何者かさえ分からず自信もなかった健二が、栄さんとの約束により、勇気と視界の広さをもたらし、「自分にしかできないこと」を発見する。

これもベタだが素晴らしいシーンである。


陣内家という田舎の大家族が世界の敵ともいえる「ラブマシーン」に挑むのもいい。

代々陣内家は、「他人の役にたつ」というのを伝統としており、そのせいかインフラ関係の仕事をしているキャラクターが多い。

そして、0Z自体もインフラの一部なので、これらの「他人の役にたつ」職業技術が「ラブマシーン」に対し最も有効な攻撃方法なのだ。

社会の混乱を一時的に鎮静化したラブマシーンは、陣内家の家紋を見て敵として認識する。

ここら辺のくだりも実によく、最後に敵である陣内家に小惑星探査機を落とすといった行動にも説得力が持てるし、実にいい。


終盤の花札勝負もいい。

ゲームーオーバーの一歩手前に追い込まれた夏希。

その夏希の闘志に感化され、世界中から集まった一億五千万ものアカウント。

そして「ジョン」と「ヨーコ」という、明らかにジョン・レノンとオノ・ヨーコを意識した世界平和のシンボルともいえるキャラクターの登場。

世界全体が一つになり、世界の敵ともいえる「ラブマシーン」に打ち勝つ。

何ともいいカタルシスを感じさせてくれる。

因みに何故ラストバトルが、格闘ではなく花札勝負にしたかというと、栄を演じた藤純子の作品「緋牡丹博徒花札勝負」に因んだものらしい。



これらに関しては評価できるのだが、それ以外はかなり粗が目立っている。


・健二の頭が良すぎる。(調べたところによると、健二の解いた暗号はAthlon2.2GHzのPCを連続稼働させても1京年かかるらしい・・・。しかも、そんな人が世界に55人以上もいるのかよ!!)

・栄おばあちゃんの人脈が広すぎる。(国家権力を電話一本で動かせるととか・・・「グラップラー刃牙」の徳川かよ!!!)

・スパコンが、あんな氷の柱だけで冷える訳ないだろ!!(しかも、その柱を婆ちゃんの遺体が腐るからと持っていくし・・・。そんなに直ぐに腐らねーよ!!!)


などと、その数はかなり多く、書いていったらキリがないので、特に気になった3つをピックアップする。


◎ 健二のアバター


AIが健二のアバターを乗っ取る意味が分からない。

当初は健二がAthlon2.2GHzのPCを連続稼働させても1京年かかるであろう暗号を解いたことにより、「ラブマシーン」が健二のアバターを乗っ取ったとされていた。

乗っ取る理由にはなってないと思うが、まあそれでも何となくは分かる。

しかし、実際は世界中で健二以外にも50人以上が解いており、しかも健二はスペルミスをしており、正解はしていない。

それにも関わらず、何故「ラブマシーン」は健二のアバターを乗っ取ったんだ??

何でもかんでも説明をすればいいという訳ではないが、これくらいは説明すべきなのではないか・・・。


あと、OZを崩壊させた犯人として健二の顔写真を全国ニュースに流していたが、健二は未成年だ・・・。

いくらヤバい事をした可能性がある重要参考人とはいえ、未成年の顔写真を公開していいのだろうか・・・。

一応、目を隠してはいたがあんなの速攻でバレるだろ!!!

この世界には少年法という概念がないのか!!!


物語のラストで憧れの夏希先輩という尻軽ビッチと結ばれて、ハッピーエンドのようなクソな終わり方をするのだが、高校に戻ったら地獄を見ることになるだろう・・・。

なんたって全国に顔写真を流されたんだ・・・。

主人公の住所や経歴・・・ありとあらゆる情報が完全に流出されるだろう・・・。


コラ画像でイタズラされるだろうし、Amazonなどで大量のペニス器具などを着払いで送り付けられるかもしれない。


まあ、この世界の住人が全員アルトリストで、聖人君主のような人々で横行してたら大丈夫なのかもしれないが、残念ながらそうではない。

一般市民が勝手に役場の住民基本台帳データを覗くような精神レベルの人々が横行している世界だ。

というか、住民基本台帳データを覗いた奴は多分公務員かなんかだと思うのだが、仕事と無関係な個人的理由で住基ネット使って、他人の個人情報を閲覧なんてしたら大問題だろ!!

それを何の問題にしないということは・・・。


残念ながら健二は悲惨な運命を辿ることになるだろう・・・。




◎ 必然性


先ほど、『陣内家という田舎の大家族が世界の敵ともいえる「ラブマシーン」に挑むのもいい。』と書いたが、これに関しても全部が全部いいという訳ではない。

確かに陣内家が「ラブマシーン」に挑む資格はある。

だが、陣内家が「ラブマシーン」に必然性に関しては全く感じないのだ。


普通に考えて、陣内家が「ラブマシーン」と戦う必要はない。

この件の対処はOZの運営・政府機関、もしくは米軍がやるはずだ。

しかし、どういう訳かそれらが「ラブマシーン」に対応している描写が一切ない。


だから、世界レベルの緊急事態に、何で田舎の大家族だけが挑むの??という疑問が出てくる。

あまりにもご都合主義なのだ!!


せっかく陣内家の中に「ラブマシーン」の開発者でもある侘助がいるのだから、それを使えばいい。

例えば、


OZの運営・政府機関・米軍が対処しようとするも、開発者の侘助でないと解決することができない。



対策本部などに連れてこようと画策するが、連れてきている時間がない。(連れてきている間に、探査機が原発めがけて墜落してしまう)



仕方なく、陣内家で侘助と大家族が協力し「ラブマシーン」に挑む。


といった流れの方が、合理的かつ必然性があっていいと思うのだが・・・。




◎ 物語のクライマックス


本作での物語のクライマックスは、探査機が陣内家めがけて突っ込んでくるのを阻止するというものだった。

だが、その前でクソビッチの夏希が世界中の人々と一丸となって、探査機が原発めがけて墜落を阻止している。

どう考えてもスケールダウンだ。

しかも、別にその場から皆で逃げれば十分逃げる時間はある。

それなのにみんな逃げずに家に残って、健二を見守っているのだ。


いや、逃げろよ・・・。

結果的に大丈夫だったからいいものの、圧倒的に一家全滅の可能性の方が高いぞ!!

そんなんで死んだら、栄おばあちゃんも浮かばれないだろうに・・・。


しかも、探査機が陣内家直撃じゃなくて、陣内家の近辺に落ちたからハッピーエンドみたいになってるけど・・・それなりの犠牲者が出てもおかしくないレベルの被害はあると思うのだが・・・。

ハッピーエンドなのかな・・・??


それとクソビッチの夏希の描写では、エッジの効いた派手な演出をしていたのに対して、このクライマックスは健二が鼻血を出してキーボードを打ってるだけのショボい描写だ。

普通にクソビッチがクライマックスの方が良かったんじゃないか??

温泉って描写も安っぽいし・・・。
ポルりん

ポルりん