櫻イミト

蜘蛛男の櫻イミトのレビュー・感想・評価

蜘蛛男(1958年製作の映画)
2.5
江戸川乱歩「蜘蛛男」の唯一の映画化。公開時は「殺人鬼 蜘蛛男」と「蜘蛛男の逆襲」の2部構成だったが、現行DVDでは各クレジットはなく一本にまとめられている。

東京のY町に開店した小さな美術商。就職面接に訪れた女性が行方不明になり、石膏に塗り込められたバラバラ死体となって発見される。波越警部は犯罪学の大家、畔柳博士(岡譲司)の助力を仰いでいた。やがて”蜘蛛男”と名乗る同一犯から映画スター富士洋子の誘拐予告が届く。この難事件に探偵・明智小五郎(藤田進)が挑む。。。

東映の「少年探偵団シリーズ」が人気を博し連作が続く中、大映配給で公開された乱歩原作の一本。

導入部、街頭看板見上げカットから老人による美少女誘拐監禁、そして次々に発見されるバラバラ死体と、「少年探偵団」には見られない乱歩の通俗的猟奇性が感じられ期待が高まる。なのだが、明智のイメージにほど遠い藤田進の登場から失速し始め、中途は時間を持て余したような展開が続いてしまう。二部構成を区切らず一本化している現行DVDの仕様も良くないのだと思う。クライマックスになってようやく「パノラマ館」のシュールな美術でムードを持ち直して終幕する。

前半に出てくる犯罪学の大家、畔柳(くろやなぎ)博士を演じるのは「氷柱の美女」(1950)で明智を好演した岡譲司。一方、藤田進も「一寸法師」(1948※ロストフィルム)でも明智を演じたとのことだが、本作での藤田は東宝怪獣映画おなじみの防衛庁長官役のイメージそのままの芝居で明智には合っていなかった。

犯人の動機が”妻に不倫され女性を恨むようになった”というのが陳腐で残念だが、原作を忠実に辿っているとのこと。乱歩自身も反省したと伝えられている。しかしパノラマ館のような犯人の私流な”芸術的犯罪”を乱歩が描いたのは本作が初めてであり猟奇志向への転換点となった記念すべき原作であり、そのことをふまえて観ると本作の未完成さも魅力のひとつと感じられる。

※8年間存在した制作会社”新映画社”の最後の作品。
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