ハリ

ミリオンダラー・ベイビーのハリのネタバレレビュー・内容・結末

ミリオンダラー・ベイビー(2004年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

過去の自分の過ちのせいで選手に対して過保護になりすぎているフランキーと31歳からプロボクサーを目指す誰からも愛情を与えられて来なかったマギーの師弟物語

自堕落な家族から疎ましく思われハングリー精神満載な女性のプロボクサーへのサクセスストーリーかと思ったが全然違った。

物語前半はまさしくシンデレラストーリー。才能と闘争心を秘めたマギーを"女"という意識を捨ててトレーニングをつけるフランキー。メキメキと上達しタイトル戦に挑戦するほどになる。その向上心は堕落した家族を助けるために家を買ってあげたいという一心から産まれたものだったが、家族からは「家を買うくらいなら金をくれ、生活保護が打ち切られると困る、女のボクサーなんか家族の恥」とまでに突き放されてしまう。失意のままフランキーと共にタイトル戦へと挑む。

この前半だけでも充分に堪能。迫力のあるボクシングシーンやトレーニング、嫌でも感情移入して身に沁みてしまうマギーの歩んできた半生が良く描かれていた。

後半は相手の反則からの脊髄損傷のせいでボクシング生命が絶たれる事になる。首から下の麻痺で日常生活もままならない。こんな状態になってしまった娘に金の話をしにきた家族の描き方が凄く嫌らしく悪い意味で人間らしさの塊で秀逸すぎた。

マギーに対して深い負い目から付きっきりで看病するがマギーは自殺未遂を図ってしまう。1年半という短いボクシング人生だったがマギーの生きてきた証をフランキーが与える事が出来た。ガウンに刻んだ"モクシュラ(愛する人よ、お前は私の血)"という言葉の意味をマギー自身に伝える事で2人は師弟関係を超えて、親子愛、そして…、に変わったように思った。

ボクシングこそがマギーの生きる意味という事を痛感したフランキーはマギーが望む尊厳死を選び自ら手を下すラスト。
家族から嫌味を言われた後に2人で食べたレモンパイをフランキー1人で食べるラストシーンはとても余韻が残った。マギーを失ったフランキーがその後どうなったか誰も知らない。

こんなに前後半でテイストが変わる映画だとは思わなかったがずっと見入ってしまった。ボクシングの成り上がりストーリーに見せかけて尊厳死をテーマとして持っている事が後半にわかるので叙述的。前半の爽快とも言えるシンデレラストーリーが尊厳死を選ぶ過程で必要な成り上がりシーンだと分かる構成は圧巻だった。
個人的評価:名作
ハリ

ハリ