ボクシング映画は結構好き。アメリカン・ドリームをつかむ『ロッキー』('76)とか、栄光からの転落を描いた『レイジング・ブル』('80)や『キッズ・リターン』('96)などなど。スカッとしたり、孤独な人間ドラマに共感したりしやすいのがこのジャンル。
でもクリント・イーストウッド監督によるこの作品は他とはだいぶ違うかな。試合中の迫力ある演出よりも、人間の内面心情の演出がより濃い目。
ヒラリー・スワンクが演じる女性ボクサーとイーストウッドが演じるベテラントレーナーを軸に、前半はアメリカン・ドリームを実現していくサクセスストーリー、後半は2人を襲う悲劇が描かれます。
ヒラリー・スワンクは裏表のない素直な女性。最初から最後までやりたい事、やって欲しい事がとてもはっきりしています。そんな彼女に翻弄される頑固一徹な老トレーナーの心情の揺れ動きがとても細やかに描かれています。この映画が素晴らしいと感じるのはここです。
表情にはあまり出さず、派手な演出も控えめ。その代わり心の変遷、苦悩や葛藤がとても自然に画面から表れていたと思います。光や影を上手に使い分けているのでしょうね。
イーストウッドの巧みな表現力は唯一無二と感じる映画でした。