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天使の一人旅のレビュー・感想・評価

天使(1937年製作の映画)
5.0
エルンスト・ルビッチ監督作。

英国の外交官である夫・フレデリック、妻・マリア、そして彼女が旅行先のパリのロシアンサロンで恋に落ちた紳士・ホルトンが織りなす三角関係の行方を描いたロマンス。

ルビッチの映画には物語がある。最近の映画は複雑に脚本を練ることばかりに拘っているようで、一本筋の通った物語というのが少ない。本作の物語は単純明快。夫、妻、妻の浮気相手の三角関係を描く。たったそれだけのことでも、“次はどう展開していくんだろう?”と鑑賞者をワクワクさせてくれる。やはり“分かりやすさ”は作品の“おもしろさ”に直結するのだと思う。もちろん分かりやすいだけでは不十分で、ルビッチ監督の確かな演出力が本作を下支えしている。

三人の心理描写が秀逸。夫の豪奢な邸宅でエンカウントしてしまったマリア(マレーネ・ディートリッヒ)とホルトン。二人の心は間違いなく動揺しているはずなのに、夫を交えた食事の席では平静を装って冷静に会話を楽しむ。だが次の場面では、肉が無くなった皿と肉が食べ残された二つの皿が映し出される。マリアとホルトンの隠し切れない心の動揺が、食欲の不振として外に表れる場面だ。

仕事で忙しい夫が席を外したため、部屋に二人きりになったマリアとホルトンが繰り広げる心のせめぎ合いも緊張感でいっぱい。
「君はパリにいた“天使”だろう?」
「いいえ、違うわ。私はしばらくパリへ行っていないの。」
「いつまで白を切るつもりだ?」
マリアに迫るフレデリックと、あくまで他人を装うマリア。二人の心情の対立と変化が見どころだ。

そして、三角関係の結末を描いたラストショットは軽妙洒脱&感動的で、思わず巻き戻して二度観てしまった。“こういう描き方もあるんだな~”と感嘆させられる。

マリア役のマレーネ・ディートリッヒの演技も絶品。何より表情の作り方が抜群に上手い。
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