櫻イミト

天使の櫻イミトのレビュー・感想・評価

天使(1937年製作の映画)
4.0
三島由紀夫が愛好した一本。初めて観るルビッチ監督作。

ロンドンに住む外交官の妻マレーネ(ディートリッヒ)は、夫の留守中にパリへ赴き旧友のロシア大公妃が営む高級出会い系サロンを訪ねる。そこで知り合ったアンソニーと恋に落ちるが“天使”とだけ名乗ってその場を去る。実はその男は、夫の戦友だった。。。

心理劇の描写に唸る不倫サスペンス。夫とアンソニーがかち合ってからは最後までずっとハラハラさせられた。シナリオと演出の切れ味が凄い。特に夫婦の家でアンソニーがマレーネの写真を見る場面。確実にショックを受けたであろうアンソニーの顔をあえて映さず観客に気を持たすという凄技。この演出の布石が、パリで突然消え去ったマレーネをアンソニーが探すシーンで打たれている(花売りの顔を映し続けている)。クライマックスの扉を使ったサスペンス演出には感心するばかりだった。

本作の時期のディートリッヒを美しいと思う感性は自分にはない。三島由紀夫はディートリヒを“ドイツのオカメ”と例えていたが、それよりも物の怪系の能面にそっくりだと思う。だからこそ今回のマレーネ役はピッタリだった。

※オペラハウスで流れる曲は許されざる愛を描いた「トリスタンとイゾルデ」前奏曲。
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