かつて一世を風靡した人気プロレスラーが、その人気の低下とともに、もはやそれだけでは食べていくこともままらない地下プロレスの世界に生きるプロレス人生晩年を描く。大学生までプロレス大好き少年だった私にとっては(今は総合格闘技とボクシング中心でプロレスは観ないですが)、プロレスラーを通して人生を語るこの作品設定はなんともたまらない。プロレスの舞台裏にあるブック(事前の台本や打ち合わせシーン)などを余すところなく表現しているところも、思わずニヤリとしてしまう。
人生の絶頂期には周囲を顧みず、自らを省みず、自らが捧げてきたものとともに突き進む。そして、その絶頂期から転落し、冷静になって自らの人生を振り返った時に、初めてその代償に気づく。
それでもこの道で生きてきた自らを変えることのできない不器用な生き方。しかし、その不器用さがあるからこそ、今も慕ってくれる同業界の仲間たちや熱狂的なファンがいるのも事実。
彼が闘いを求め続けたのは、彼を支える熱いファンへ応えるためか。いや、それ以上に、プロレスやファンを通じて孤独と闘う自らに対する自己肯定の最たる手段だったのだろう。