猫脳髄

キラー・スキャナーズ 謎の完全殺人の猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.2
いうほど悪くもないが、さりとて良くもない。自らの復讐のために幽体離脱の能力を駆使して関係者を殺害する主人公と、それを阻止しようとする刑事と精神科医コンビの対決という筋書きで、原題もPsychic Killerを標榜している(※1)。ただし、主人公に生来備わった能力というより、他者から引き継いだメディウムを用いるところから、1年遅れとなる「キャリー」(1976)のような純然たるサイキック(超能力)・ホラーとはいい難いものの、広義ではその先駆けといえるだろう。

冤罪により精神疾患患者が集まる医療刑務所に収容されたジム・ハットンが、釈放後に冤罪にかかわった医師や警察官、母親を見殺し(※2)にした看護師(※3)らを殺害するが、次第にエスカレートして関係性の薄い人びとまで手にかける。対する警察側も強引で、超能力でパクれないならこっちもムチャクチャやったらぁ!とばかりに、クライマックスでは凄まじい方法でハットンに対処しようとする(※4)。

冤罪だけどもやっぱりキチガイではあるハットンの妄想をモノクロでカットバックしつつ、そこに登場する関係者を殺害するというシークエンスを繰り返す。関係性の薄い人物ほどひどい殺され方をしており、彼の狂気に歯止めが効かないことを物語る(※5)。まさにキチガイゆえ、と思わなくもないが、主人公の逡巡や内心を描写しないのは随分あっさりしている。被害者側も急に歌ったり踊ったりと変なテンションで薄気味悪い。

決定的ではないが、超能力にサイコモティーフを組み込んだ先行作である点と、劇中の珍演出、割と衝撃的なクライマックスの処理は評価したい。

※1 超能力か霊媒か、いずれと訳すべきか迷うところだが、後者のニュアンスが強い
※2 ハットンが舞い戻る荒れ果てた屋敷を含め、「サイコ」(1960)の閉塞的な母子関係のモティーフを導入している
※3「愛欲のえじき」(1972)のメアリー・ウィルコックス。あの作品でもヘンテコな役だったが、患者の家で謎のダンスを披露した挙句、熱湯シャワーで死亡
※4 割と衝撃的だが、伝統的な吸血鬼モノのような処理にもみえる。製作者が新手のサイキック相手にどういう結論がありうるか模索しているようで興味深い
※5 関係性の薄い不動産業者を「礎石」で押しつぶしたり、ちょい役ながら強い印象を残す肉屋のネヴィル・ブランド(「悪魔の沼」は翌年)を急にゴアゴアのミンチにしたりと容赦ない
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