天馬トビオ

白い恋人たち/グルノーブルの13日の天馬トビオのレビュー・感想・評価

3.0
オリンピック憲章は夏季・冬季オリンピックごとに公式記録映画の製作を義務づけている。この映画は、その憲章に基づいて作られた、1968年にフランス、グルノーブルで開催された第10回冬季オリンピックの公式記録映画。

しかし、「記録映画」でありながら、この映画ではどんな競技が行われたのか、誰がどの競技で優勝したのか、といったオリンピックの記録はいっさいと言っていいほど描かれていない。ナレーションや字幕説明を極力排し、練習風景やグルノーブルの街に暮らす人々の日常を含め、叙情たっぷりのメインテーマに乗せて脈絡もないままに映像が流れていく。

市川崑監督が挑み先鞭をつけた新しい形のオリンピック映画のさらなる進化系が、このルルーシュの私的オリンピック映画だろう。メインテーマを耳にするたびによみがえる「記憶映画」――映画作家の感性を全面に押し出した映像詩という評価こそが相応しい。この新たな試みが、1972年のミュンヘンオリンピック公式記録映画『時よとまれ、君は美しい』を最後にその流れを止めてしまい、ナショナリズム偏重気味な旧い形態のオリンピック映画に逆戻りしている傾向は残念でならない。
天馬トビオ

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