天鵞絨

ゾンビ/ディレクターズカット完全版の天鵞絨のレビュー・感想・評価

5.0
随分前に録画していたものをようやく視聴。
「ゾンビ達がショッピングモールを頼る=消費社会への批判」という批評ですが、私は間抜けだから気づけませんでした。
ガラス張りのドアに顔を押し付けるゾンビのカットの多さから意味ありげだなとは思ってましたが、風刺と結び付ける知能と知識が無かった…

まあ、それに気づけなくとも作品自体のクオリティがとんでもなく高いので良いんですけど。
ピーターは軍に所属しており、メンバーの中で一番の切れ者。減らず口を叩く奴ですが、ロジャーがゾンビになった時は彼のために引き金を引くことも出来るんですよね。そして生きようと最後まで踠き続けた男である。彼、ホントに格好良いんです。

モール潜入後に流した陽気な店内音楽。それが流れる場所は死人で溢れかえるばかり。今までの日常が一気に非日常に様変わり。モールにはゾンビでいっぱいなのに、実質貸切状態で自由奔放な様。この異様な画面が最高です。
無法地帯と化した社会だからこそ好き勝手に行動してる様子は、彼らの置かれている心細い状況を忘れさせるような痛快さが感じられます。
ゾンビを一掃した後の略奪、試着、食料品を貪り食う!襲撃の準備中にエスカレーターとエスカレーターの間を滑る場面だったり。高価そうな服装を来てモールを見下ろす場面。

(ブラック)ユーモアを忘れない精神がまた良いんですね。終盤にモールに乱入した第三勢力がゾンビを軽くあしらいパイを顔面に押し付けたり水鉄砲で威嚇したり。腕が千切れた男の測定結果が「血圧ゼロ」だったり、銃を最後まで手離さなかったゾンビとか。
エンドロールのBGMだって、なんだか気の抜けるBGM。シリアスな状況でも冗談を挟めるのが超魅力的です。

この作品の終わり方は「根本的な解決にはならないが、生きていくために目の前の現実だけは対処していく」というもの。
ヘリの燃料も少なくメディアも機能していない。ゾンビのワクチン等は開発されているが効き目があるのか?
前途多難どころか死んだ方が楽ではないか?とすら思えてしまう末期の世界。
だがそれでも生きていこうとするオチがね、滅茶苦茶に良かったです。要は後悔があるか無いかですよ。

以前鑑賞した『チェンジリング』も、終わりが見えないが息子の生存は確認できたので、後は息子を捜すだけだと決意して終わり。
そういう絶望的な状況でもがき、答えや希望が見えなくとも前進しようとする締めでした。
そういう終わり方の映画が好きなのかもしれない。
天鵞絨

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