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グッド・ウィル・ハンティング/旅立ちのエスのレビュー・感想・評価

4.9
傷付きすぎた人間は、もう二度と誰かの愛を受け入れるのは出来ないのか。はたまた自分から愛を差し出すことは出来ないのか。”スラム街出身の清掃員が実は天才だった”には留まらない凄まじき脚本、今作が突き詰めるところは想像以上に深く、自分の奥底のやわらかいところを良くも悪くも揺さぶってくる。

自分はひねくれてなんかない、暴力も振るわない。すぐ感情移入してはすぐ泣くし、素直に感情を表にすることに抵抗はない。

だけど傷付いた過去からのコンプレックスは死ぬほどあって、必要な時以外は家に籠って映画を見るし、誰かと本音で会話するのは苦手で、嫌われないようにと、それを隠すのが本当に上手くなってて、よく自分を見失う。だからひとりが楽で。

”君は実際に世界をみてない、経験をしていない”という最初のダイアログが刺さりつつも、親友はいるか?彼女がどうこうだとか、段々と自分が責められてる気分になり、人生は出逢って家庭を築いて稼いで死ぬ事こそが真のゴールだと突き付けられてる気がして嫌だった。そう感じる自分にも嫌気が差した。けど違った。とんだ早とちりだった。

”君という人間に興味がある、君自身の話なら喜んで聴く”だなんて、これ以上に相手に歩み寄るに最適な言葉はないし、各セリフがショーンを想っているからこその本物の言葉だった。

色んな議論をヒートアップさせたとて、本当に問われていたのは”自分は何をしたいか”。たったそれだけのことで。

各掛け合いの中で、ロビンウィリアムズとマットデイモンのあの笑い合ってる姿がとてつもなく美しくみえてたまらなかった。リアルな親友だからこそ光るベンアフレックも良かったし、真正面に向き合いながら現実を突きつけていくステランスカルスガルドも良かった。

胸の内を明かすのは弱みをみせることだと思うので、傷付くこともあるし、報われないこともある。だけど、ぶつかっていくことで育まれる絆や、かけられたやさしい言葉の尊さ、話すことで手放せる重荷、相手を知るということ、人間が為せるこの魔法をこれからも大切にしていきたい。
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