メガネン

グッド・ウィル・ハンティング/旅立ちのメガネンのレビュー・感想・評価

4.6
この手の話しはいわゆる"ギフテッド"と言う概念が人口に膾炙するようになってきた昨今、人によっては主人公ウィルの言動が身近に感じられることもあるのだろうか。

これは魂の再生の物語だ。
それは、主人公ウィルの物語であり、またショーンの物語でもある。
ウィルは本当に天才で、映像記憶を持ち、難解な数式を操り、哲学から芸術まであらゆる知識に精通している。そのうえ、「F○ck」やら「Assho○e」の飛び交う下町言葉でユーモアをかまし、友人たちとバカ騒ぎや喧嘩に明け暮れたりもする。

しかし、「本当は何がしたい」のかが分からない。

彼の半生は過酷な虐待に耐えることだった。残虐な暴力から陰惨な性的虐待まで。
そうした背景から、傷付くことを恐れ、傷付く前に他人を遠ざけ、殻に閉じこもると、ショーンは分析する。

新世紀エヴァンゲリオンの碇シンジも良く似た心性を持っていて、思えば二つの作品はエヴァが95年、本作が97年であることを思えば不思議な符号を感じさせる。

ところで、ショーンが他のカウンセラーたちと違ったところはなんだったのだろうか。
それは、言葉や頭の良さではなく、その裏にある心を徹底的に暴いたことにあるのではないか。
ショーンとの最初の面談は印象的だ。
「もう一度、妻のことを貶してみろ。殺すぞ。」
実際にウィルの首を絞めながら、ゾッとするほどの凄みを発するロビン・ウィリアムズの演技は鬼気迫っている。
他の5人のカウンセラーたちは決してこんな風に心の底からウィルに感情を向けることはできなかっただろう。職業倫理とか、カウンセリング技術とか、そういったものが枷となる。

その後のカウンセリングでも、ショーンは激怒することは無いけれど、自分の経験の中での、真に心が動いた瞬間のことについて語る。
そして、ウィルの奥底に押し込めた、その臆病な心に触れようとする。また、ウィルが自身の怯えに気付くことを促してもいる。

果たして、ショーンとウィルは心を通わせ、ウィルは多分生まれて初めて、心の底から涙を流し、許しを乞う。
このシーンは映画を通して観ていると、やはり泣けてくる。

全体を通して言えることだが、実にキャラクターが生き生きとしている。演技や演出が良いのだろう。
ミニー・ドライヴァー演じるスカイラーが、ウィルをカルフォルニアへ誘う時のと、ウィルからの電話で口にする「I love you」は、どちらも目を見張る演技だ。痛切な前者と、哀しみに溢れた後者は、同じ言葉なのに、まるで違って聞こえる。素晴らしい。

演出としては、悪友三人とのやり取りがどれも心地いい。誕生日に自分たちが拵えた自動車を用意してくれる親友なんているだろうか。なんて素晴らしいF○ckin' carだろうか。

そして、ショーンはポストに投げ入れられた手紙に「Son of a b○tch!」と幸せそうに悪態をついて物語は終わる。
手紙に書かれていたことは、つまり、ウィルが本当にしたいことを行うと示していたから。それが何より嬉しかったのだろう。

そして、ショーンも旅に出る。
妻を失ってから止まっていた時計の針を進めることを決めたかのように。そしてそれはウィルがそうさせたのだ。

人の世界で、人は人の中で人になっていくと誰かが言ったが、この映画はそんな風に人と人の間で生きていくことへの勇気をくれる気がする。