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その壁を砕けのニューランドのレビュー・感想・評価

その壁を砕け(1959年製作の映画)
4.1
✔『その壁を砕け』(4.1p)及び『密会』(3.1p)『春の夜の出来事』(2.8p) ▶️▶️

 中平康、確かに幾分かの才気はあれど、特筆すべき傑作としては、新藤兼人脚本と組んだ緊迫感溢るる初期作品くらいか(20C末·四半世紀前から固まった個人的印象で、20数年観てなかった)。例外的なそこでは、まさに純粋映画そのものの宣言を見るようで、万全の本に依拠し、全力·純粋に、映画構築を完璧·絶対に成し遂げてる。その1本が本作。他では中期の、爛熟·純度崩れた味わいの仲谷主演ものが光るくらいか。何しろこの作家の作を初めて観たのが、カンヌ日本代表で『儀式』に競り勝ったというのが冗談としか思えない『~魑魅魍魎』(新藤の本だが)なので子供の時の初見作の不信が残りめ(。『東京オリンピック』や『激突!』『禁じられた遊び』など大人の感覚で見直そうという気も起らない、いや『東京~』はつい2.3年前再見した)。
 中平の最高傑作『殺したのは~』に次ぐ代表作『その壁~』は21世紀に入ってFC辺りで観たんだったろうか。冤罪捜査ミステリー、日本社会旧弊告発、様々な魅力群像らの骨太な枠と実の面もあるが、映画として屹立し·それが全てではないにしても、最大の魅惑に違いなく、ちょっとない映画単体のレベル~スマートさ·力·シャープさに達して、奇跡を目の当たりにしてる気もする。その上、新藤(後半ちょっとご都合主義か)·伊福部·(取分け殊勲)姫田という最強スタッフが揃ってるのだ。内2人が共通する6年後の『日本列島』すら連想させる、力の充実。
 スクリーンプロセスは殆どなく(列車内くらい)、常に車やバイクにフィットしてく(列車内もセット部多いとしても力は保たれてる)。ブレが加わり·ライティングも適確、車からの主観カットかと思うと180°回ると来る車の正面捉え、車の横で併走主観から横にスライドすると車内に入っての図へと、今の映画の車の周囲に移動ブースをくっつけたのより、コンパクト·スマートで空気が立体考えるとえげつない効果。また、家屋の周辺·内では俯瞰めの高いアングルが多く、人をフォローするうちに等クレーンで降りて来てたりし、どんでんするとロー·仰めに対照的に据えられたりする、所謂高低差と云うんだろうか、映画の力を恒に感ず。車内·室内は長く暗く黒い·それが強い部分が多いが、スポットとしては浮き上がらないライティングも効果と自然さ持ち、素晴らしい。長野か新潟に鉢木という地名は実在するのか知らないが、家並み·家中が素晴らしく、道路や居間に集まる人の数·配置もリアルさと表現のゴージャスを感じさせる。家の中を廊下·部屋や土間の日本間の行き来フォローに効果的な回るめの移動を入れ(て重ね)る巧みさとノリ。手柄をフイにしての真実と人の真剣な表情に入ってく、事件当時駐在·今は本署刑事の男の、車内に吊るされたアクセサリー人形からそのイメージの容疑者の婚約者へ·更に次々連想のDIS·OLの処理の纏まりと·印象度。遂に決定的証言を得ての、その刑事の頷き·容疑者婚約者の涙のカット入れのタイミング。大向うから細部ニュアンスまで最高の筆致·技巧·迷いなさ。ラストも晴れて車も婚約者も手の内に戻り、決めつけ·あやふや·流れへの追従の村人の住む事件現場辺を抜けてくのに、吹きでる感情代行のクラクション鳴らし続ける、同時に車体もブレ揺れるかのように、飛ばしてくカット。
 内容も引き締まり、社会に属す人間に、主体なさ·流れ従いを丹念に描き、ふと残る真実への関心·引っ張り出し、自己不利より真実探求·開示へ向かい「勇気」を行使の存在あるも対置してく。その、スリルと感動·励まし合いに勇気づけられる、再·実地検証の6つのケース再現等ちと映画向け過ぎの感もあるが、ストーリー側にキッチリ惹きつける手段かもしれない。
 互いに蓄財·足場固めて結婚へ·との3年前の約束を果たすべく·決めていた日、独立し·大枚新車で、深川の自動車修理工場から新潟の看護師のいる病院へ、一気に迎えに行く男。夜半、1人の男を数十分間乗せて降ろした少し後、強盗殺人犯として、即·確保される。被害者の妻の目撃証言もあり、起訴·裁判へ。早期逮捕の殊勲で駐在から本署転勤へと、有頂天の刑事だが、引っ掛かりが生じてく。弁護士が会わせた·世間の先入観と闘う婚約者の姿、事件後里へ帰された被害者の義娘(寡婦)を嫁にもと追ってっての不審、偶然·埋めてた盗金掘り起こしの真犯人らしきを目撃·追跡(金に汚い博打狂いで殺される)、に相次いで当たり、上司の「今更。面目·立場丸潰れ」の反対を押し切り、「勇気」持ち公開し、再·実地検証を呼び込む。被害者の妻の目撃不可能、そして情事中で目撃を語れなかった義娘のこれも勇気ある証言へ、と。
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 が、自ら本を書くと、ベタで相互に矛盾の台詞·モラルの突き詰めよりも感覚的な歓びや恐怖の一気支配、らが目立ち、肝心の映画テクニックも一部を除いては妥当性を欠いた表現に留まってく。
 『密会』も、イメージ内の不安が現実からの急で強烈な音の訪れで拡大、それが破壊·破滅の現実化に進み現されもす。闇に2人だけから不穏·暴力的音の流れ込み、夜中の電話、犬の悲鳴、料理と殺人の近似、茶碗の破壊。その辺から勝手な思い込みに至る。何重もの現実からのイメージOLのオブセッション、TVのニュースら、証言の是非と·社会的立場か一体の愛かの連動、新聞報道への過大恐れ、白日の下での殺人の迷いなさ。全ては自分の罪の意識の煮詰めと併さる必然の行方、と言い難く、外圧からフラフラしてるようで、ドラマとして迫らぬ。
暗さ、90°変、出入り、L俯瞰め、左右等まさぐる移動、CU逐次表情や姿勢、黛の現代に沿った音楽、回想とモノローグ、若い女らのコメディリリーフ、らは結びつくも表面的な現実に追随のキレの悪さ残る。大学教授の若き妻と教え子が密会中、タクシー強盗殺人犯を目撃。状況から口つぐむも、増す怯え。
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 増して脚本合作、他人(西河)の演出の『春の夜~』となると、車や列車の力、二階の内廊下の360°近く捉え等はあるも、平坦でモロ、子供騙し脚本の弱体が露呈す。菓子箱を使っての工作コンクールで1位は就職決まらぬ好青年、2位は身を偽ってのグループ会長、共に名所高級旅館招待。後者には、これも身を秘しての、執事·(遅れて)娘とお手伝いが帯同も、彼らがその前に旅館に厚遇を頼んだのを、旅館では身なりで逆理解、汚く周りにそぐわぬ会長を追い出さんとす。しかし、厚遇中の1位青年が、知らず会長をサポート·後の就職と娘との結婚に繋がる。逆転世界の面白さと言いたいが、好意や恋の表しとか、他にも偽物(本人が役の上の自分偽物を演じてる、のも)がいて、その一般的な罷り通り方、が呆れるほどベタで、大人向けとも思えぬ短絡·イージー展開の作となった。
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