netfilms

アリランのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アリラン(2011年製作の映画)
3.8
 キム・ギドクは2004年の『サマリア』、2005年の『うつせみ』で世界のトップに躍り出てからは、2000年代後半の作品はややスランプに陥っていたように思う。2008年の『悲夢』のクライマックスで、危うく主演女優のイ・ナヨンを事故死させそうになったことで彼は映画監督を休止し、人里離れた山奥に3年もの間籠もった。雪の積もる田舎の村で木造の掘っ立て小屋を建て、その中にテントを設営し、寝泊まりした。映画はキム・ギドクの影が監督自身にインタビューする形式を取っている。ここでの監督はカメラの前で役者として振る舞う。役者を恫喝する言葉を吐いたり、脚本や原案をプレゼントした助監督の裏切りへの恨み節を語ったかと思えば、突然カメラの前で泣き出したり、しまいには朝鮮民謡の『アリラン』を声高らかに歌う。特に『春夏秋冬そして春』で50代になった主人公を演じた彼自身が、石を背負いながら山を登る場面をDVDで観て、ひたすら号泣する場面が印象的だ。

 2020年12月11日、キム・ギドク死すの報道は日本で暮らす私にも11日の夜に届いた。最初は俄かに信じられなかったが、どうやら事実らしいと聞いて絶句した。監督は工場勤務のあと厳しい訓練で知られる韓国海兵隊で5年間勤務し、突然絵の勉強のためにフランスに渡った。30歳の時である。初期の作品には多くの絵描きが登場するが、結局彼の絵画の才能は開花しなかった。韓国に帰国してから脚本を勉強し、36歳の時監督デビューを果たす。いわゆるシネフィルではない彼の出自と軍隊出身のルックスには強い生命力があり、COVID-19にやられたとはどうしても考えにくかった。彼の映画には死をも恐れない登場人物たちが幾度も出て来た。それが生身の人間ではなく、ウィルスにやられるとは何たる皮肉だろうか?ラトビアで彼は既に住居を購入し、韓国から永遠に移住する計画を立てていたという。キム・ギドク監督のご冥福を改めて心よりお祈り申し上げます。
netfilms

netfilms