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無分別のFilmomoのレビュー・感想・評価

無分別(1958年製作の映画)
3.9
①Lovers are indiscreet.深くなるほど無分別という男女の仲を洗練されたタッチでスタンリー・ドーネン監督が描く。ヒッチコックの『汚名』で世界中が驚くような熱烈なラブシーンを演じた二人、イングリッド・バーグマンとケーリー・グラントの息もぴったりな大人の、少々コミカルなタッチの恋愛劇である。ケーリー・グラントはイングリッド・バーグマンの引き立て役で、当時43歳のバーグマンの美しさは天下一品。一方のグラントは54歳だから、男の盛りは過ぎているものの、見事なダンスを披露したり、気品のあるところを見せてくれる。②この物語は、まず、ボーイ・ミーツ・ガール、というよりジェントルマン・ミーツ・レディがあって、先に進む前にグラントがバーグマンに「実は別居中の離婚できない妻がいる」と札を切るところが前段のミソだ。バーグマンはこれを、男の誠実と受け取る。恋愛が深まった時に「実は妻がいる」と言って逃げる男が多い中で、この言葉は逆に大人同士の信頼関係を結ぶ手助けをする。さて、その後二人は品位のある付き合いを始める。バーグマン扮するのは有名な舞台女優。グラントは外交官でNATOの仕事を請け負っている。外務省に勤めるバーグマンの義理の兄の紹介で二人は知り合った。付き合いが深まるにつれて、『無分別』となってゆくわけだが、このきっかけとなることが面白い。グラントは実は独身で、妻がいるという告白をするのは、「結婚はしたくない、でも恋人は欲しい」という身勝手な「ルール」によるものだ。当然外交の仕事をするので、義兄はグラントの身分を知っており、妻などいないことを知ってグラントと二人きりの時になぜウソを言うのかを尋ねるのだ。ここで観客も「えっ??」となる。③一方、そのグラントの身分情報をこっそりと見てしまったバーグマンの姉によって、グラントが実は独身だということが彼女に知らされる。もちろん、姉は「安心しなさい、彼は妻なんかいない、独身なのだから結婚できるわよ」と喜ばせようとしたのだが、バーグマンは怒り心頭する。この、「妻帯者に恋い焦がれ、独身と分かった時から怒りに変わる」という感情の変化が面白い。その後何食わぬ顔をしてバーグマンはグラントとダンスパーティに出る。前半にも晩餐会で語らうシーンがあるが、同じようなシーンでも全く意味が異なってくるのが面白い。で、どうやって元のさやに収めるのか・・・という終盤に至る。スタンリー・ドーネンの流麗な演出はさすがに手慣れたもので、見事。グラントはやや老けが目立ってきたが、こういう人を紳士と呼ぶのだろう。それにしても、気心知れた映画人が集まるとこれほど楽しい映画ができるのかというお手本のような作品だった。
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