三樹夫

蝿の王の三樹夫のレビュー・感想・評価

蝿の王(1990年製作の映画)
3.0
無人島に少年たちが漂流し対立が始まり惨劇が起こるという、数多くの作品の元ネタになっている小説の2度目の映画化。映画が始まっていきなり海中に投げ出される機長と少年たち。飛行機が墜落するシーンを撮れるだけの予算が無かったのか、いらないところは省略という演出なのか、とにかくいきなり海に投げ出されそして無人島に漂流するという良い始まり方をする。少年たちが着ている制服から少年向けの陸軍学校の子供たちというのが分かるようになっている。良いのはここまでで、後はずっとタルいのが終わりまで続き、本編90分と短いがそれでもダレる。70分でもいいぐらいだ。プロットは後発の作品に影響を与えまくっているように勿論良いのだが、演出がヌルいのもあるし子役の演技がそんなに上手くないのもあるが、『蠅の王』に影響された作品でこれを超えてくるのがもういっぱいあってしまうので、今更観ると良く言えば古典的というか悪く言えば古く感じる。
『無限のリヴァイアス』は恐怖政治は碌なもんじゃないなと思っていたら宗教がさらにヤバくて恐怖政治の方がまだマシだったとグイグイ引き付けられたし、『漂流教室』は楳図先生のセンスオブワンダーが半端じゃなかったので、正直今更この映画を観てもとなる。私の『蠅の王』後継作品での推しは『無限のリヴァイアス』だ。

少年だけというか、一応機長も漂流しており一人だけ大人がいるが、『漂流教室』の邪悪じゃない関谷みたいな感じなので、実質少年たちだけの無人島生活となる。
少年たちは規律を守る文明のグループと、野蛮のグループに分かれる。これって中世のキリスト教的な文明と野蛮観で、キリスト教的な都市は文明でその外にあるキリスト教化されていないものは野蛮という、傲慢で無自覚的な差別意識を持ってきている。野蛮というのはどういうイメージかというと、この映画みたいないい加減にしろよというやつで、野蛮(非キリスト教徒)って怖いわ~みたいな無自覚な差別意識があるし、だからキリスト教の俺たちが外へ行ってキリスト教を広め文明化しないとという、そらキリスト教の名のもとに虐殺するわというのも納得する。野蛮のイメージが先住民まんまなので、思い上がってるなとなる。
登場人物が少年なのは、話を少年に置き換えることで寓話として機能させるためだ。一応原作者の意図としては、第二次世界大戦での従軍経験で失われた人間存在への信頼、殊にユダヤ人虐殺がまさに「文明の伝統を背負う男たち、医師や法律家という学識ある男たちによって、巧妙に、冷血に行われた」という事実に受けた衝撃がこの作品の根底にあり、人間の原罪と堕落がその主題であるとのこと。
三樹夫

三樹夫