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人間の條件 第3部望郷篇/第4部戦雲篇のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

4.1
<人間の條件3部4部>
ドラマのクライマックス。暴力と狂気の中での人間的な葛藤が描かれています。

<3部>不条理な軍隊の暴力

軍部の不条理な暴力に対し、正義を語り、悪に立ち向かう梶は、大卒であったことが災いして、前線に回されることになるおそれを残す。日々の暴力で自殺者が出る中、梶もまた自身の正義のために、人間性を試される場面に何度も遭う。

<4部>極限の対ロシア地上戦

沖縄が陥落した情報も入る満州の関東軍。それでも日本の勝利を信じてやまず、突き進む。
梶は出世したが、部下を上司の理不尽な暴力から守り、時に盾となり、代わりに殴られる。
梶という人物は殴られても殴られても負けない(モデルがクリスチャンなので左の頬を差し出しているように見えた)。
しかし、前線のロシアとの戦闘で気が狂う者も。梶もまた、部隊の皆の命を守ろうとし、思わぬ行動に出てしまう。

<3部4部>

は日常の暴力と前線の極限の中で、人間性を保てるのかが試されている。
小説が原作なので、心理描写が非常に細やか。
戦争が人間を鬼に変えていく、そのプロセスを描いている。
少しずつだが、梶が変わってきている。この微妙な変化を演じわける仲代達矢。
人は突然鬼になるのではない。

この3部4部では、軍を批判し、生きて帰ることを希望する<家庭人>の梶が、軍人の息子の語る<大義>を批判するところがもう一つのメッセージだと思う。梶は、玉砕を無意味だと一刀両断し、部下に生きて帰ることを伝えている。ここが他の邦画と違うところだろう。戦争映画でこういう理想を語るリーダーはめったに現れない。

しかし、自分の部隊の命を護ろうとするあまり、一人の部下を手にかける。まさに全体主義である。あれだけ個の幸せを語っていた梶。自身の暴力が自身の内で大きく育ち、知らず知らずに狂気と紙一重となっていた。

自身が鬼になったことに気づけるのはまだ人間性が残っているからだろうが、鬼になったことに気づかず、戦地から生還し、日常に戻っても葛藤なく生き続ける鬼がまた次の戦争を肯定していくのではないか。そんな感想をもった。

自身の罪に葛藤し苦しむ者と、<大義>に責任を預け、解放される者の対比がこの先5部6部にありそうだ。
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