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人生万歳!のtakのレビュー・感想・評価

人生万歳!(2009年製作の映画)
3.8
しばらくヨーロッパを映画の舞台にしてきたアレン先生が、「メリンダとメリンダ」から5年ぶりにニューヨークで撮った作品。監督に徹する作品では、様々な男優がウディ・アレンの分身のような演技を披露してきた。最近なら「ミッドナイト・イン・パリ」のオーウェン・ウィルソン、「セレブリティ」のケネス・ブラナーあたりが見事だった。この「人生万歳!」(なんか高齢者向け番組ぽく感じる邦題だが・笑)では、テレビで脚本家・コメディアンとして活躍するラリー・デビッドを主演に迎えた。この人、スタンダップ・コメディ(一人でステージに立つ毒舌話芸)から世に出た人なので、この映画の主人公ボリスの毒舌で皮肉を口にする偏見に満ちた初老のキャラクターにぴったり。もうこの人でなかったら、どんな映画になってただろう。

ノーベル賞を取り損ねた天才物理学者ボリスは、自殺に失敗し妻と離婚。その後は下町で、仲間とカフェで毒舌三昧のおしゃべりをしたり、近所の子供にチェスを教えたりの冴えない日々。ある日家出してきた20代の女の子メロディ(エヴァン・レイチェル・ウッド)を泊めてやったことから、彼女との不思議な共同生活が始まる。世間知らずで教養の乏しいメロディを「私は天才だから、君とはレベルが違う」と見下すボリス。だが尊敬は愛に変わるのか、メロディはそんなボリスを「好き」と言い始め、ついに二人は結婚。ところが、メロディを探してニューヨークに母親(パトリシア・クラークソン)がやってくる。都会で新たな価値観を見つけて、ぶっ飛んだ行動を取り始める母親。母親が娘をボリスと別れさせるために若い美男俳優をけしかけ、母親を追ってやってきた父親を巻き込んで、事態は性をめぐる大騒動に発展していく。

ラリー・デビッドという最高の語り部を得たせいなのか、ウディ・アレンが世の中に言いたかったことを次々と繰り出してくる。「スリーパー」あたりの昔の作品で、台詞の片隅に社会への皮肉が散りばめられていたのを思い出す。「人生万歳!」では、久々に政治を皮肉るネタまで飛び出す。昔を知るからこそ「らしい!」と拍手を送れる映画かも。ただ一方で、ボリスのキャラクターに嫌悪感を抱いてしまった人にはキツい映画かもしれない。それにしてもここまでこじれた物語がどんな結末に?と思っていたら、奇跡のようなハッピーエンドが待っている。ヨーロッパを舞台にした「それでも恋するバルセロナ」や「マッチポイント」では、突き放したような結論だったのに。古巣ニューヨークで撮ったことも理由かもしれない。

どんなにうまくいかない人生を送っていても、世の中を悲観してネガティブになっていても、必ずどこかにあなたを理解してくれる人がいる。「それでも恋するバルセロナ」のラストで感じた無常観。人って誰かに惹かれあうものなのに、結婚って何だろう?と不謹慎にも考えながら、空虚な表情のヒロインを見ていた。でも「人生万歳!」にはその先のアンサーがある。ちょっと変わった人たちばかりのお話だけど、愛さずにはいられない佳作。そう思ったら、この古くさい印象の邦題も理解できる気はするんだよな。
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