O次郎

電子頭脳人間のO次郎のレビュー・感想・評価

電子頭脳人間(1974年製作の映画)
3.9
『時計じかけのオレンジ』+漫画『ブラックジャック』の欠番回「快楽の座」!
後の『ジュラシック・パーク』シリーズの脚本で有名なマイケル=クライトンのSF小説の映画化で、「咄嗟の嗅覚異常をきっかけに記憶喪失とその間の殺人未遂行動」という特異な精神疾患を抱えるロボット工学博士が、脳内に電極を埋め込んでその衝動を抑制する、という世紀の人体実験に挑む。

科学と倫理の相剋を問いかけるテーマは如何にも往年のSFといった感じで好きな人には期待を持たせるのだが、残念ながら冒頭からいかんせん原作を端折り過ぎなんだと思わせる。ジョージ=シーガル演じる主人公の人となりや初の人体実験に挑む決意のほどの描写が淡白なセリフのみで、さっさと施術シーンに移る。
そのため、その後の脱走シークエンスの動機付けもイマイチ共感出来ず、主人公の当て所無い逃亡の悲壮感も、「衝動を抑制する電極に慣れて、それを欲する形で衝動を誘発してしまう」という本末転倒(それも実はあらかじめ想定されていた)の副作用の末の繰り返される殺人行為の皮肉も、観客に訴える力が正直言って弱い。

ただ、なす術なく希死行動に導かれていく主人公の姿はどこか滑稽で物哀しく、その姿にはどこか、円谷特撮の名作『怪奇大作戦』のエピソード「氷の死刑台」でかつての我が家の前でサンビームの前に倒れた冷凍人間を想起させるものがあるかも。
その他、主人公の身を案じる主治医のジョーン=ハケットの非肉感的で乾いた美貌や、物語冒頭とラストでのまるで視聴者を受刑者に見立てたかのような覗き窓からの目元だけのアップのカットは秀逸である。チャールズ=ウィットマンやリー=ハーヴェイ=オズワルドらに言及されるシーンが有るので、犯罪者フリークにも響くかも。

全体としては凡庸な仕上がりながらキラリと光る部分も有るのでクセのある作品好きには薦めたいところ。
O次郎

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