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四川のうたのmasayaanのレビュー・感想・評価

四川のうた(2008年製作の映画)
3.0
これもまた、フィクションと現実の狭間で映画の定義を問うような意欲作だ。もっとも、(ウィキペディアによると、笑)00年代後半以降のジャ・ジャンクーはドキュメンタリー映画を定期的に撮るようになっているらしいので、この試みは彼の中ではごく自然なものだったのかもしれないが。

さっぱりまとめると、中国全国から集まった10万人の雇用を生み、やがてその10万人を失業者として路上に放つことで閉鎖した軍事系の国営工場の、元労働者たちやその家族をめぐるインタビュー集である。ただし、そのうちの何人かは実際の元労働者たちであり、別の何人かは俳優が「実際の当事者から取れたコメントを代読する形で」演じているのだが。つまり、ここで語られる逸話そのものはおおよそ現実のものでありうるが、語り手が本人ではないという意味ではフィクションなのである。このあたり、見ていてかなり不思議な気分にさせられる。

中国国外でも評価は高いのだが、僕は残念ながら中国語がわからないため、「字幕映画」という構造上の理由からか、これまでのジャ・ジャンクー作品と同じ感覚で楽しむことは難しかった(簡単に言うと、字幕に目を奪われがちになってしまう)。もちろん、画面に集中できる時間帯には映像が最良の語り手となり、中でも、あとは取り壊しを待つばかりとなった薄暗い工場の内部から、建物の外で重機が駆動している光景をかなりのロングショットで数秒だけ捉えるシーンにはゾッとした。のちに来る「破壊」を確実に予感させながらも、それを忘れさせてしまうような構図の完全さなのである。

それぞれの逸話については詳しく触れない。ただ、「同じ工場で働いた」という共通の記憶を持つ人々が10万人存在し、敷地内に学校や宿舎まであったというにも関わらず、(当たり前っちゃ当たり前なのだが)誰一人として同じ人生を歩んではいない様子が伝わってきたのはよかった。なお、工場跡地には、不動産会社「華潤置地」によるセレブ向けの高層マンションが建築されている。
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