三隅炎雄

日本悪人伝の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

日本悪人伝(1971年製作の映画)
5.0
同じ村山新治が撮った傑作『遊侠三代』のラストでは、主人公の梅宮辰夫が魂の救済を求めて教会に向うのだが、この映画のゴロツキ若山富三郎はいきなり額に十字架の刺青をして現れ、誰に誓ったか地獄の鬼とならんと文字通り悪徳の限りを尽くす。売春宿をはじめ地獄の鍋の底と劇中喩えられる世界が、これでもかと血塗れの吐き気を催すような露悪的な描写で綴られていって、ここまで総動員で徹底的にやると南北の人間悪が見えてくる。あるいはこの世の果てにあったリゴレットの殺人宿の世界が。これは商業映画として大変なことだ。同じ年の松本俊夫『修羅』がお遊びに見える。
脚本は神波史男で、彼が後に書いた『実録 私設銀座警察』『仁義の墓場』が生ぬるく見えるくらいに凄まじい世界をすでにここで描いている。やくざ映画で子分たちより主人公の方が先に殺されるのも破格で、主人公が死んでもこの世の地獄絵は続く、そういう思想の映画だ。若山富三郎の東映主演映画ではこの作品が頭抜けて凄い。
三隅炎雄

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