シズヲ

サスペリアのシズヲのレビュー・感想・評価

サスペリア(1977年製作の映画)
4.1
ダリオ・アルジェントが送る極彩色のグラン・ギニョール。連続猟奇殺人を描いたサスペンス的構図と虚構性を突き詰めたアーティスティックなビジュアルの共存。非現実的な美術設定の数々が映画の不条理性と絡み合い、ある種のシュールな劇画的空間を構築。“バレエの名門校”や少女達を主題にした舞台設定も相俟って、ゴシックホラーとしての世界観を形作っている。主演であるジェシカ・ハーパーの不安げな眼差しもまた作中の緊張感を強調する。あと『サスペリアPART2』は邦題が勝手に2扱いしただけで別に続編ではないらしいので理不尽。

本作の魅力はやはり視覚的なインパクトを突き詰めているところで、赤や緑などの鮮やかでどぎつい照明が常に大胆な印象を与えてくる。陰影のコントラストがやはり良い。舞台となるバレエ学校もビビッドなカラーリングを基調とする美術設定が実に鮮烈で、過剰なまでの色彩やセットの構図がスタイリッシュに際立っている。冒頭の殺人シーンなどの強烈なゴア演出も含めて、リアリズム以上に過剰な虚構性を演出しているのが良い。些か悪目立ちしかけてるゴブリンのスリリングな音楽も、本作のサイケデリックなビジュアルとの奇妙な相互作用を起こしている。

オカルトなのかミステリーなのか判然としないまま延々と進んでいく構成は確かに不親切ではあるし、それだけに大筋の骨子が微妙に掴みづらくなっているのは否めない。冒頭の殺人シーンなども明らかに実態を伴った犯人がいるかのようだったので、ミスリードと呼ぶにはちょいと理不尽。魔女という作中の核心に関して、序盤の時点である程度明確に匂わせていた方が終盤の展開へとスマートに繋がっていた気はする。視覚的演出などのシュールな大袈裟ぶりも含めて好みの分かれる部分ではある。

展開の回し方や終盤の畳み方などで思うところは確かにあるけど、こうしてビジュアルやイメージに命を懸けた作品はやはり好ましくて憎めない。一種の芸術性を感じる様式美的な世界観、ジャーロの系譜にある猟奇的描写、何処となく少女漫画めいたゴシックな舞台設定。何というか、徹底的に拘りを突き詰めて作家性を込めたお化け屋敷のような趣に満ちている。散見される人工的なわざとらしさすら舞台劇めいた味になっている。
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