Ricola

大都会/ビッグ・シティのRicolaのレビュー・感想・評価

大都会/ビッグ・シティ(1963年製作の映画)
3.8
当時のインド社会の根強い古い考えにさいなまれる中で、女性の自立心は芽生え、強くたくましく成長していく。

小道具の使われ方や主人公アロティの夫の視点などによって、ストーリーの解像度がより上がっているようだった。


アロティが働き始めてから、いろいろなことが変化する。
例えば夫婦で朝出勤前に共に食事をとるということ。
一緒に食事をとるのは、結婚式のとき以来だという…。
また夫婦で通勤し、電車の中でのアロティの冷たい手に驚くが、これも結婚式のときはそうだったと…。
彼女にとって働くことは、結婚以来の新しい世界に踏み込むことなのである。
伝統的に思える家から、街や会社のビル、高給住宅街などの現代的な、違う世界を彼女は知る。

それから小道具の使われ方であるが、それはアロティが「常識」とされていたことから、殻を破る際のモチーフとして登場している。
まずは鏡である。鏡ではその機能の通り、自分自身を見つめる。
それも、客観的に自分を見つめるのである。
アロティは会社のお手洗いにある鏡の中の自分を見る。
封筒から初任給をのぞかせ、自分の顔の前に持っていき満足そうに鏡の中の自分とお札を見つめるのだ。
このシーンは、自分の社会的立場を見つめ、自分の母でも妻でもない存在価値をじっくりと見出す瞬間である。

また西洋人の同僚から口紅をもらう。
口紅を塗る習慣がないため最初は戸惑っていたが、彼女は社会に赴くときに口紅を塗るようになる。
また会社のお手洗いにある鏡をのぞいて口紅を塗る。それは社会で活躍するという自信を表明するかのようである。
だが、家に入る前には小さな鏡で口紅がついていないかどうか確認する。
社会での彼女は、家では通用しないのだ。

そして夫の複雑な心境の描かれ方。
「常識」的に考えると彼女を働かせることを、彼はよく思っていないのだ。
しかし彼女の変化や自分の置かれた状況から彼の考え方も変わっていく。
カフェの柱に写るアロティと彼女の知り合い。夫は半分だけ写っていて彼の体自体もスクリーンにおさまってはいる。
柱に映るものを映すことと、人物をそのまま映すこと。二人の分離がここで示されているように考えられるのではないか。

また、蚊帳の外でタバコを吸いながら思いにふける夫。
彼の動きに呼応して影が動くが、その影は彼とは反対方向に動く。
世間の常識と自分の思いの間で、夫が葛藤していることが示されているようだ。

当たり前だとみなされている古い慣習が、新しい時代では彼らを締め付ける。インドの都会だけでなく外国人によってアロティの考えが変わっていくことや、希望だけを振りかざすわけにはいかない現実の壁など、リアリティをもちながらも豊かな表現とともに確かなる成長が描かれた素晴らしい作品だった。
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