アニマル泉

天使の恍惚のアニマル泉のレビュー・感想・評価

天使の恍惚(1972年製作の映画)
4.5
若松孝二のATG作品。白黒スタンダード・パートカラー。「革命は精鋭なる兵士だけがなし遂げる」「右から左、左から右へ動かしているだけの指導部はダメだ」東京総攻撃を画策する革命軍の内ゲバを描く。組織のメンバーは十月、秋、金曜などの暗号で呼称される。組織は「一年」と呼ばれる。冒頭の米軍基地の弾薬庫からの強奪が面白い。夜、米軍基地のフェンスを潜って、塹壕の溝を進み、トンネルに侵入して弾薬を盗み出す。搬出する時に気づかれて壮絶な撃ち合いになる。十月(吉沢健)は失明する。米軍基地に侵入して強奪するというのは荒唐無稽だがアイデアとしてはなかなか斬新で革命軍と米軍の戦闘は新鮮である。
主な舞台はアジト、つまりアパートの部屋で「密室」が続く。低予算を逆手に取る手法でもあるが「密室」は若松の重要な主題だ。密室で繰り広げられる凄惨なリンチ、濡れ場。突然響く玄関チャイムに緊張が走る。誰だ?敵か?味方か?若松の「密室」の撮り方でポイントとなるのは「俯瞰ショット」だ。ここぞという時に若松は「俯瞰」になる。人間を空間の中に放り出す。若松は「俯瞰」の作家だ。アップは逆さまのアップが多用される。仰向けに寝ている人物のアップを逆さまに俯瞰で撮るショットが象徴的だ。盲目の十月と金曜(横山リエ)が背中合わせで自慰行為するのを俯瞰のアップで撮る互い違いの逆さまツーアップが強烈だ。革命とエロスの決定的ショットだ。
若松は「赤」だ。革命の炎であり血の「赤」だ。
クライマックスの爆弾テロは音で描かれる。爆発、悲鳴、パトカーの騒音はすべて音で描かれる。これも低予算ならではだろうが表現の方法はいくらでもあるということだ。そして山下洋輔トリオのフリージャズと連続爆破と逃げるブレまくりの手持ち主観ショットが煽る。
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