Ricola

ミラノの奇蹟のRicolaのレビュー・感想・評価

ミラノの奇蹟(1951年製作の映画)
4.0
貧しい人々が直面する、救いようのない現実を冷徹な視点をもって描いてきたデ・シーカが、この作品では思いっきりファンタジーに傾倒している。
自らもジャンルとしての確立に携わってきたネオレアリズモ作品に対して、この作品で自己反省的な要素を見出しているようである。


不思議な力を、天国にいる育ての親であるおばあさんから託される青年トト。
彼は天真爛漫な性格で、常に前向きである。トトが関わると、一時的ではあるが、不思議と皆平和な思考に変わる。
自殺をしようとしていた者は思いとどまるし、物を奪い合おうとした者たちもトトが仲裁したら急に譲り始める。
ちなみに彼の仲裁によって救われた瓦礫の山に埋もれた彫像は、誰か一人のものになるのではなく、広場に彼らの希望の象徴として置かれることになる。

また、トトの自分を犠牲にしてでも相手を肯定する姿勢は、まさに聖人のようである。
背の低いことを嘆いている人には、トトも足を曲げてその人と背を合わせたりとか、リューマチで苦しむ人には自分だって体が痛いところいっぱいあるから一緒だと、嘘をつく。
彼に水がかかってしまって、怒られる少女をかばうために彼は水が好きだから気にしないでと、通りがかった人の持つ水の入ったバケツを自らかけるのである。

トトの人柄と行動力によって築き上げられた、平穏な「スラム街」にも、魔の手が忍び寄る。この土地を買収しようという富豪が現れるのである。

彼らと、警察と富豪との戦い方も、笑いに振り切って描かれる。
警察に煙を撒かれて住民たちは逃げるけれど、トトの「魔法」を使って皆で息を吹いてその煙を敵陣へ押し戻す。
また、拡声器で牽制をする警察に「魔法」をかけて、美声でオペラを歌わせてしまう。それに大笑いする住民に、警察は憤慨するものの歯が立たない。
現代でも通用しそうな、コントのネタみたいなことをやっているのである。

天国にいるおばあさんがリスクをおかしてまで授けてくれた「魔法」。
しかしそれがいくら超人的な力であっても、現実であるこの地上では効果の限りがあるようである。
どうしようもできない現実に立ち向かい解決することは、この世ではできないようである。

ツッコミどころは満載であるかもしれないが、ここまで底抜けの明るさとおとぎ話のような「魔法」に頼ることで、現実では成しえない理想郷に、映画ならば到達することができるのだと示しているようである。
しかしそれは同時に大いに皮肉であり、作品を観たあとには現実との歴然たる違いにどうしてもがっかりしてしまうのである。
Ricola

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