星降る夜にあの場所で

SOUL RED 松田優作の星降る夜にあの場所でのレビュー・感想・評価

SOUL RED 松田優作(2009年製作の映画)
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はじめに、このレビューはちょっと長く(それでも1/5以下に削ってはみましたが)、何度も削除編集したため文章の接続や脈略が不自然な部分があることを始めにお断りしておきます。
優作さんに興味がない方以外は全く観る価値のない代物です。
また『SOUL RED 松田優作』に関するレビューではないので、あしからず<m(__)m>


本日11月6日は私にとって特別な日なので、例外として邦画をアップしたいと思います。
尚、このレビューは松田優作さんが出演した作品をご覧になったことのない方々に特化したレビューになりますので、普段は余程のことがない限り殆ど書くことのない【調べれば誰でも分かるような情報】も書いてあります。

優作さんが逝ってしまってから27年の時が過ぎました。
お若い方からすると、松田龍平と松田翔太の父親といった認識が一般的になってきているようです。
それでも息子さん二人の活躍が観れることは感無量ではあり出演作品は欠かさず観てはいるのですが、やはりちょっぴり寂しいわけで…
時折二人が垣間見せてくれる優作さんの面影がちょっぴり切ないわけで…
今回は、私の中でマーロン・ブランドと並んで日本が世界に誇れる名優になっていたであろう 松田優作さんの出演作品をご紹介したいと思います。

初めて優作さんが出演した作品を鑑賞する方には、どの作品をお薦めするのがベストなのかをしばらくレビューするのをお休みして出演映画全作品とドラマ数本を再鑑賞しながら数日間考えてました(笑)

まず、解りやすいように簡単にジャンル分けをしてみたいと思います。
ただジャンルはあってないようなものなので、あくまでも指針として書きました。

※ ともだち(1974)、レイプハンター 狙われた女(1980)、薔薇の標的(1980)並びにテレビドラマは省略させて頂きます※

◆時代劇◆
竜馬暗殺(1974)
ひとごろし(1976)

◆学園もの(どちらもバイオレンスな内容)◆
狼の紋章(1973)
暴力教室(1976)

◆探偵サスペンス◆
乱れからくり(1979)
探偵物語(1983)
ヨコハマBJブルース(1981)

◆ヒューマン・サスペンス◆
人間の証明(1977)

◆クライム・アクション◆
最も危険な遊戯(1978)
殺人遊戯(1978)
処刑遊戯(1979)
俺達に墓はない(1979)
蘇える金狼(1979)
ブラック・レイン(1989)

◆クライム・スリラー◆
野獣死すべし(1980)

◆文芸作品◆
陽炎座(1981)
それから(1985)
嵐が丘(1988)
華の乱(1988)

◆青春コメディ◆
あばよダチ公(1974)

◆ホーム・ドラマ◆
家族ゲーム(1983)

◆松田優作監督作品(SFクライム・サスペンス)◆
ア・ホーマンス(1986)


優作さんは邦画アクションのジャンルで頂点を極めます。
御覧頂ければ分かると思うのですが、優作さんのアクションは凄い!とか格好いい!とか、そういった次元を超越した繊麗な美しさがあります。
ワイルド過ぎるあの風貌からは全く想像がつかないしなやかな所作に何度観ても痺れます。
あれだけ美しいアクションを体現出来た俳優は、世界レベルでみてもブルース・リーと優作さんぐらいではないかと。
ただ、ブルースと優作さんには圧倒的な違いがあります。
体格の差です(スピードに関してはやはりブルース。優作さんはブルースの肉体と動きに憧れていたそうです)。
183cm(所説ありますが、一度私が並んで写真を撮らせて頂いた際、全く同じ身長に見えたのでこの数字としました)の身長に着痩せして見える引き締まった筋肉質の肉体(例をあげるなら、ウサイン・ボルトのフォルムに近い)となが~い手足。
ハリウッドの錚々たるアクションスターには申し訳ないのですが、美しさという点(フォルムが違う)では優作さんに軍配が上がるでしょう。
また煙草を吸う姿が格好いい俳優は世界中に沢山いますが、その格好良さに加えて煙草を持つ手(指が異常に長く、女性から見ると非常にセクシーらしい)の表情までもが美しい俳優は他にいないのではないかと。
とにかく何をやっても格好いいのです。
私にとって格好いい男の定義は、松田優作さんそのもの。
如何なる洋・邦画のキャラクターも全て松田優作さんと比べてどうかで判断しているように思えます。
もしかすると女性が男性に求める格好良さの対極にある格好良さなのかもしれませんが、ハマる女性はガッツリとハマってしまうことでしょう。
本当のところ優作さんの生い立ちから死去までを時系列で追いながら作品を説明する方が内容の濃いレビューになるのですが、とんでもない長さになってしまうのと目的は優作さんが出演した作品を紹介することなので強引に短縮しました。


おすすめ①

『家族ゲーム(1983)』

タイトルだけはご存知の方も多いでしょう。
テレビでは、『家族ゲーム』の前に何本かのホーム・ドラマに出演していましたが映画では唯一、最初で最後のホーム・ドラマ。
ただ、皆さんが想像するようなホーム・ドラマとは全く異なります。
監督は自称天才、森田芳光監督(偶然にも優作さんと同い年。正確には学年が一緒で、優作さん1949年9月、森田監督1950年2月生))。

高校受験を控えた息子に家庭教師を頼む一見普通の団地で暮らす一般家庭が舞台になっています。
工場を経営している父(伊丹十三)、レザークラフトを趣味に持つ母(由紀さおり)、公立進学校1年の長男慎一(本作品のみの出演で廃業)、中学3年生の次男茂之(宮川一朗太)といった家族構成。

金属バット両親殺害事件(1980)がテーマの根底にあります(台詞の中にも出てきます)
確かに当時は核家族が増加し、また親子間のコミュニケーションが希薄になっていた家庭が多い。
因みに私の家庭を例に出すと、父が道路公団関係の仕事をしていたため出張が多く一年でトータル1ヵ月家に居るか居ないといった具合で、殆ど父と話をすることがありませんでした。
ただ幸い、隣に母の実家があり祖父母と叔父さん夫婦が住んでいたので毎日のように遊びに行き、核家族といった感じではなかったですね。

次男茂之は勉強が大嫌いで、成績は下から9番目のおちこぼれ。
父親は、何度か家庭教師を雇ってきたが誰1人長続きはしない。
そして次に白羽の矢が立ったのが優作さん演じる三流大学7年生の吉本です。

見所は沢山あるのですが、その中の筆頭は何といっても茂之と吉本のやり取り。
これが最高に笑えます。
海外で評価された一番の理由は、おそらくこの二人が独特の間合いの中で繰り広げる【あー言えばこう言い、あーすればこうするといった】といったプチ戦争でしょう。
勉強が嫌いな茂之はいつものように家庭教師をからかって辞めさせようともくろみ、吉本は時給の他に歩合として茂之のクラス成績順位が1番上がることに1万円といった契約を父親と結び、是が非でも茂之の成績アップを!と一歩も引かない。
そしてまた父親には家庭教師を雇うもう一つの理由があります…
要はこれがコミュニケーション不足を助長する大きな原因となっていたのです。

この父親には変わった習慣が2つありました(キーワードは卵と車)。
見てくれは立派な父親であるが、どこか大人に成りきれていない部分が深層心理の中に存在し、物事に対して真剣に向き合えない非常に自己中心的な部分がこの習慣を象徴しています。
加えて母親がまた超過保護。
ただこれは完全に父親に原因があるでしょう。
この夫にして、やむなくこの女房…といった感じ。
すなわちこの家庭、耳を澄ますと時限爆弾のタイマー音が聞こえてきそうな、どこか殺伐とした異様な空間のほとんどは父親が作り上げ、時限爆弾のスイッチをONにしたのも父親なのです。

本作品で歪んだ不安定なこの沼田家の実情を炙り出す役目をしているのが家庭教師の吉本。
彼もまた謎めいた男。
まず感情を一切表に出さず、どんな時でも無表情。
自分の事は殆ど話さず、聞かれたら仕方なく答えるといった有様。
かと言って勉強を教えること以外は無関心かというとそうではない。
無骨に見えて器用にアメとムチを使い分け、情深い部分もあるのです。
茂之は徐々に閉ざしていた扉を開くようになっていきます。

また茂之の部屋と慎一の部屋にはそれぞれの性格というか願望めいたものが見て取れ、この違いも興味深い演出となっています。
演出といえば、食卓のインパクトには驚かされます。
最初は、全員の所作を一台のカメラで捉えるための奇抜な演出かと思いましたが、
先程話題に出した戸川純さんが沼田家の母親に相談にのって貰おうと訪問した際に
この家族の食卓の椅子の配置(横一列に並ぶ)が異常なのだということが判明します。
この座る配置こそが沼田家の状態そのものなのです。
最後の晩餐時、吉本が真ん中に座ります(他にも5人並んで食事するシーンもありますが、ここでは沼田家を探っている状態)。
それによって隣同士の隙間が無くなるので、のびのびと食事をするには当然身体が触れ合い窮屈になります。
異邦人吉本は冷静かつ辛辣な目で沼田家もしっかりと観察していました。
力づくで時限爆弾のスイッチを止める演出も見どころの1つです。

長男、慎一のアナザーストーリーにも目が離せません。
ある意味、茂之よりも慎一の方が問題児だったのかもしれません。
彼は、感覚で家庭の危機を察知し犠牲になっていたのでしょう…
慎一は初めから吉本に好意的でした。
まるで救世主にでも出会えたように吉本に接する。
吉本は沼田家における慎一の立ち位置を理解し、慎一の前では別人のように優しい。
数カットしかないが、この二人の関係性にグッとくるものがあります。

難解といわれているラストのヘリコプターに関してですが、これは人それぞれの感じ方で構わないようです。
監督はこのシーンに関して、ヘリコプターのローター音はコッポラ監督の『地獄の黙示録』から引用したと述べているだけでそれ以上の事は何も語っていないとのこと。
ラストカットで変わらずに横並びに置かれた食卓の椅子から、未だ状況は変わっておらず未来の不安を暗示した演出と捉えられるのが自然かなとは思うのですが。
棺桶の件(このシーンのやり取りも笑えます♪)も少しひっかかりますが。
ここは、皆さんがそれぞれ推測して楽しむのがベスト。

最後に、
・茂之を卑屈にしていたもう一つの要因(学校)、
・茂之の受験の合否、
・慎一のその後、
は、実際に鑑賞して確かめてみて下さい♪


【おまけ】
※エピソード※

・戸川純さんというタレントが登場します。
当時、暗い雰囲気の不思議ちゃんといったスタイルでコアなファンを獲得していました。
彼女は、TOTOが発売したウォシュレットのCMキャラクターをしていました。
それなのに…(笑)
恐らく脚本家か監督のブラックジョークでしょう。
私がウォシュレットの存在を知ったのはこのCMが初めてでした。
YouTube【戸川純 CM 1982年 TOTO ウォシュレット】で検索すると見れちゃいます。

・吉本は沼田家までの交通手段に小型船を使っていました。
彼の指定席は船首。
これは、本多猪四郎監督『ゴジラ(1954)』でゴジラが海底から登場するシーンをモチーフにしています。
【破壊】というキーワードで繋げているのでしょう。
また、吉本には一つ笑える癖があります(キーワードは飲み物)。
そして普段不愛想な吉本も恋人(阿木燿子※劇団文学座同期生※)の前では…(笑)

・茂之を演じた宮川一朗太さん(当時17歳)が優作さんに初めて声を掛けられた第一声が、
『お前童貞か?』
でした。
ボソボソと呟くように言われ聞き取れなかったので、三回も聞き直し最後は、
『童貞か?って聞いてんだよ』
と言われたらしい。
そんな宮川さんが今でも忘れずに心掛け、後輩たちにも伝えている言葉があるという。
ラッシュを観ながらきちんと演じられない自分の不甲斐無さに悩んでいると、
『いいんだよ、それで。天狗になるより、いいじゃねーか。なぁ?』
と言われ気持ちが楽になったらしい。
芸能界で生き残っていくために最も必要な教訓の1つなのかもしれません。

・吉本の台詞に、
『豊島園なら一番に入れますね』
という台詞があります。
森田監督はディズニーランドにしたい、ディズニーなら外人にも分かりやすいし。
完全に目は世界へ向けられていたという逸話です。
因みに、東京ディズニーランドは本作品が公開された年の春に開園しています。
目指した通り、日本より世界で高く評価され爆発的にヒットしました。
優作さんと森田監督は現地に赴き、観客の反応をみて興奮します。
『森田、俺たちの時代がくるぞ!』
『あぁ、黒澤さん、三船さんに追いつこう!』
『いや、追い越すぞ森田!』


本作品の大成功を前に、優作さんは『野獣死すべし』撮影後辺りから本格的な演技派を模索していました。
そんな時、プロデューサー荒戸源次郎(大正浪漫三部作etc…)から、優作さんが大好きだった鈴木清順監督作品出演のオファーが舞い込んできます。
ここから優作さんはアクションを封印しはじめ、春が來た(1982) 死の断崖(1982) などのテレビドラマにも出演していくことになります。
そしてこの作品の撮影に入ります。

与えられた役になりきるために
【細胞から変えていく】
といった言葉からも分かるように、徹底的な役作りをしたことでも有名でした。
そのためには、脚本をしっかりと読み込んで役柄を理解しきらないといけません。
当然のことながら、深い洞察力と豊かな経験と感性が必要になってきます。
しかし、普通に生活していれば実際に経験できることは極端に限られています。
そこで、疑似体験をするわけです。
優作さんは物凄い数の本を読んでいました。
また時間があれば映画や芝居を観に行く。
多忙な中、自ら劇団も立ち上げ7本もの脚本・演出・出演もこなしています。
酒の席で優作さんが俳優仲間にこんなことを言っています。
『お前たちは、俺に絶対勝てない。なぜなら俺は24時間映画のことを考えているからだ。』
またこの言葉に関連した優作さん流の哲学で、

『ヤクザはなんで怖いかわかるか?ヤクザは24時間ヤクザだから怖いんだよ。』

話が少し逸れてしまいましたが、いわゆる所有している疑似体験・経験が詰まった引き出しの数が莫大なわけです。
恵まれた肉体以外にもこういった日々の努力から迫真と称賛された演技が生まれてきたのでしょう。
私が本作品をお薦め①としたのは、ストーリーも面白くグイグイ引き込まれるブラックコメディが散在し、優作さんの繊細な静の演技が堪能できる作品だからです。

森田監督がインタビューでこんなことも言っています。
『役者っていうのは皆わがままだから映画の中では必要以上に目立ちたがるけど彼はそうではなかった。映画全体のバランスの中で自分が常にどういう位置にいるべきなのかをわかっていた。あんなによく映画のことを知っている奴はいなかった』

優作さんは『家族ゲーム』から3年後、『ア・ホーマンス』で初監督をします。
当時助監督をしていた原隆仁監督に撮影中、
『俺がこの映画で一番気にしていることがある。なんだと思う?』
『えっ、何なんですか?』
『これ観て森田はどう思うかなぁ~』
ア・ホーマンスの試写会に森田監督を招待し、終了後に優作さんが尋ねる。
『どうだった?森田…』
『実るほど頭を垂れる稲穂かな。天狗になっちゃダメだよ優作。おもしろかったよ。』
その言葉を聞いた優作さんは子供のように喜んでいたらしい。
生粋の江戸っ子、森田芳光監督ならではの粋で思いやりにあふれた感想ですね。


おすすめ②

『野獣死すべし(1980)』

優作さんが演じてきた役柄の中で最も恐ろしい男といったら本作品の伊達邦彦以外は考えられません!
優作さんの演技の凄さを理解して頂く上で絶対に外せない傑作です。


監督は村川透監督
前記した遊戯シリーズや蘇える金狼で優作さんをアクション界のスーパースターに押し上げた監督


脚本は丸山昇一さん
伝説の連続ドラマ『探偵物語※映画版の探偵物語とは全く関係ありません。たまたまタイトルが同じだけ※』で優作さんと出会ってしまい腐れ縁となり、優作さんは絶対的な信頼を寄せていた。
優作さんに無理難題を突き付けられ何度も殺してやろうと考えながらもめげることなく、優作さんが納得できる脚本を書き上げてしまう唯一の脚本家でした。


簡単なプロフィール※傑作と言われている原作小説は別物と考え、あくまでも映画の中での設定。※
東京大学を卒業。
通信社時代に各国の戦場を渡り歩く戦場カメラマンとなる。
この時の経験が彼を内なる狂気に満ちた人間へと変貌させるきっかけとなっている。
PTSDの症状に近いものがある。
現在は翻訳の仕事をして生計を立てている。
大学時代射撃部に籍を置いていたため、拳銃の扱いに明るく腕前も超一流。
趣味はクラシック音楽鑑賞で、自宅の音響設備には金をかけている。
コンサート会場にも頻繁に足を運ぶ。
殺人で得られる快楽に心酔している…


~優作さんが台本を読み込んで伊達邦彦像を解釈していく過程~※個人的な見解も含む※
肉体を持たない男が街でひっそりと暮らしているのだが、何をはけ口にして何処にアイデンティティーを見出すのか?
読書をしたり、音楽を聴いたりすることで体は小さくなっていくが頭は大きくなっていく。
そしてなぜ人を殺すという行為に走っていくことになるのか…


またファンならずとも語り継がれている有名な逸話があります。
体重を8キロ減量し(ウィキペディアでは10キロとなっていますが、雑誌のインタビューで本人が8キロと言っていた)、頬がこけて見えるように奥歯4本を抜歯。
尚且つ、伊達の設定身長が180cmだったため両足を5cmずつ切り落とそうかと考える。
実際に身長が2m50cmあったアメリカの女性が10cm足をカットしたという話を見つけたらしい。
ただ、松葉づえで一生を過ごすことになり役者を続けていけなくなるね…
それでも切りたかった…
とまぁ~、役作りに対する入れ込みようは尋常ではありません。
切ることは諦めましたが、その妥協?(笑)を歩き方と姿勢できっちりと見せてくれてます。

唯一プライベート写真を撮ることを許された写真家の渡辺俊夫さんは
こんなことをおっしゃっています。
『1週間、優作さんの自宅に居候させて頂いた時があったのですが、優作さんがソファーに寝転んだりしてリラックスする姿を一度も見ませんでした。部屋中本だらけの書斎に入って映画のために役に立つ何かを吸収するために正座して本ばかり読んでいました。本当にびっくりしました。』

よく記者会見などで監督が、
『この役は○○さんでなくては演じられない役。○○さんなしでは成立しない作品でした。』
なんてことを言いますよね。
また、出演交渉の際に使う常套文句でもあるらしい。
結局お世辞なわけです。
ただ、村上監督は、
『私も~なんてことをお世辞で言うこともあったが、正直やらせれば他の役者にも演じることだって可能だった。しかしこの作品だけは違う。この伊達邦彦を演じられる役者は世界中どこを探しても優作以外存在しなかったと確信できる。』
おそらく誰が観てもそう思うことでしょう。

この作品に関してはかなりのネタバレをしない限りレビューが中途半端になってしまうんですよね(汗)
テーマは【本物の狂気】の一言に尽きます。
この作品を観てあーだこーだとレビューするのはナンセンスでしょう。
理性を完全に失った伊達邦彦の狂気に震えて怯えることが出来ればこの作品を解釈できた証です。
とにかく観て頂きたい珠玉の逸品。

【おまけ】

見所は何といっても優作さんの演技ということになります。
その中で最も称賛され話題となったのが【リップ・バン・ウィンクルの話】でしょう。
走る電車の中で、伊達が刑事(室田日出男)に眠る前に面白い話をしてあげましょうか?といってロシアンルーレットをやりながら語りだす怖いお話。
アメリカの短編小説を伊達がアレンジしています。
YouTubeなどにupされていますが、本作品をご覧になる予定がある方は観ない方が宜しいかと思います(笑)
いや、でもこれ見て興味がわくなら、それもありかな?(笑)(笑)
伝説となっている有名なエピソードですが、このシークエンスで特筆しておきたい部分が二か所あります。
まず、優作さんの目。
カメラを二台使用しての長回しで、その間なんと一度も瞬きしていません(今までこのシーンを何度もチャレンジしたが成功したことがありません(笑))。
もう一つは最後のトリガーを弾いた後、刑事の額からススッと流れ落ちる汗。
見逃さないでくださいね~


個人的におすすめというか、私が幽気すら漂う伊達の姿に引き込まれたシークエンスがあります。
相棒に人殺しの美しさを洗脳するために演説をしてみせます(もしかすると、これは洗脳ではなく本当にそう考えているのかもしれませんね。頭脳明晰な彼の考えを理解するのはどだい不可能なのですが)。
その内容といったらもう凄まじくぶっ飛びまくっているのですが、伊達独自の哲学的な説得力があるのです。
またこの台詞は優作さんが自ら考えてこれを使わせてくれと書いてきた台詞なのです。
この演説を聞いて、優作さんは完全に伊達という男を解釈し、自らの肉体の中に憑依させることに成功したのだとはっきりとわかります。
私が考えるに陽炎座のオファーは本作品においての優作さんの演技によるところが大きいのではないかと。
プロデューサーである角川春樹さん、原作者である大藪春彦さんは原作と全く違う優作さんの姿を見て激怒し、スタッフ全員は変わり果てた優作さんの姿に声も出なかったという話です。

おすすめ③

結局決められませんでした。
面白い面白くないは人それぞれの主観であってこれを観て貰えれば、この作品にも興味を持って貰えるはずなどという計算はできないわけで…
その代わりといってはなんですが、お薦め作品に簡単なメモ書きしておきます。

※ ともだち(1974)、レイプハンター 狙われた女(1980)、薔薇の標的(1980)並びにテレビドラマは選択枠から省略させて頂きます※


【唯一優作さんがヘタレ役を演じた珍品】

◆ひとごろし(1976) 大洲斉監督
ストーリーを楽しみたい作品。
丹波哲郎さん相手に堂々たる演技を見せてくれています。


【邦画界で頂点を極めた優作さんのザ・ハードボイルド シリーズ】

◆最も危険な遊戯(1978) 村上透監督
◆殺人遊戯(1978) 村上透監督
◆処刑遊戯(1979) 村上透監督
ハードボイルド・アクション好きの方は必見の3作品!
この時代の若い男性諸君の誰もが憧れた優作さんがここに居ます。


【一般的に認識されている優作さんの二大名作(もう一つは野獣死すべし)】

◆蘇える金狼(1979) 村上透監督
優作さんが出演したアクション作品の最高峰と言えるでしょう。
う~ん、やはり優作さん未見者にお薦めするべきスタンダードな鑑賞順は、
家族ゲーム→野獣死すべし→蘇える金狼になるのでしょうか。


【ミュージシャンでもあった優作さんが堪能できる唯一の作品】

◆ヨコハマBJブルース(1981) 工藤栄一監督
私の中で断トツで見てくれと役柄が格好いい!!!!!と思える作品。
個人的には、家族ゲーム→野獣死すべし→ヨコハマBJブルース
と書きたいとこなのですが、ストーリーが今一つなので一押し!というわけにはいかないかもです。
めちゃくちゃ格好いいんだけどなぁ…(笑)


【作品として傑作】

◆竜馬暗殺(1974) 黒木和雄監督
メインは、優作さんが兄と慕った原田芳雄さんと石橋蓮司さんなのですが、作品が素晴らしいので書き出してみました。
初見の際、度肝を抜かれ黒木和雄監督のファンになりました。
折角なので、個人的にお薦めしたいお気に入りの黒木監督作品を1つ。

『スリ』
この作品では原田さんがスリ、石橋さんが刑事を演じています。
まるでリアルで親友であった二人の関係を映像化したような秀作。


【これまた傑作!】

◆嵐が丘(1988) 吉田喜重監督
やはりこの監督は天才。
黒澤監督の白痴、蜘蛛巣城、どん底の設定変換に全く引けをとっていない。
原作の本質を理解されている方なら、この作品がどれだけ凄いかがおわかり頂けるはず。
個人的にフリーマークス低評価の理由が意味不明。
陽炎座同様、松田優作いいなぁ~と思った方にはゴリ推ししたい。
尚、喜重監督は、この鬼丸を演じられる役者は世界中で君しかいない!と直々にオファーしてきたらしい。
伊達邦彦同様、観れば確かにこんな役出来るの優作さんしかいないなと思わせる狂気的な怪演です。


【ものの見事に清順アートに溶け込む優作さん】

◆陽炎座(1981) 鈴木清順監督
優作さんの作品を3作品以上鑑賞し、優作さんに魅了された方に鉄板お薦めしたい。
優作さんの引き出しの多さが堪能できる作品。
当然、清順監督の演出も素晴らしい。


【今なら高評価されるであろう優作さんの監督作品】

◆ア・ホーマンス(1986) 松田優作監督
物議を醸したあの追いかけるシーンを含め、随所に見られる非凡な演出を噛みしめて欲しい。
過小評価されているが、お若い方なら本作品の魅力を感じ取って頂けるかもしれません。


【優作さん出演作品オール・タイム・マイベスト☆松田優作の真骨頂はここにあり!】

◆それから(1985) 森田芳光監督
私は、本作品の優作さんの演技に心酔しています。
確かにアクションで見せる優作さんは規格外に素晴らしい。
ただ地味な文芸作品と捉えられてしまう可能性があるので①②は控えましたが、本音を言うならこの作品が一番観て欲しい作品。
脚本は筒井ともみさん。
森田監督が自ら書き上げた脚本に優作さんがNGを出し、一悶着あったが森田監督が提案した夏目漱石の『それから』に強いインスピレーションを感じたらしく原作が決定。
筒井さんは優作さんと森田監督に急かされ、たった2週間弱で本を完成。
2人もこの脚本に大満足しクランクインとなる。
後に筒井さんは深作欣二監督の『華の乱』の脚本にも参加します(優作さんと吉永小百合W主演)。
また優作さんの死後、森田監督とは『失楽園』で再びタッグを組んでいます。

貴重な時間を費やし最後までこの長い駄文を読んで、松田優作さんの出演作品を観てみようかな♪
と思う方が一人でもいらっしゃれば、この上ない幸せであります☆彡


<追記>
それでも、やはり松田優作さんの魅力が最も伝わり易いのは連続テレビドラマ『探偵物語』です。
1時間番組で全27話はあるのですが、レンタルで全作見ても1000円弱で鑑賞可能です。