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マレーナのkomoのレビュー・感想・評価

マレーナ(2000年製作の映画)
4.3
シチリア島で暮らす12歳のレナート(ジュゼッペ・スルファーロ)は、年上の女性マレーナ(モニカ・ベルッチ)に夢中だった。
魅惑的な美貌を持つマレーナは、男からは羨望の的であり、そして女からは嫉妬の的であった。
いつでもマレーナを追いかけ、遠目に見つめていたレナート。しかしそんなレナートが見たマレーナの日々は、外見の華やかさとは裏腹に、苦しみに溢れたものだった。


【手を差し伸べるわけには行かなかった。幼すぎたから】

シチリアの絶景や少年の青春期を描き出すノスタルジックな映像は、同監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』を想起させます。
そして思いました。この監督は、主人公の大切な人をズタボロにしなければいけないジンクスでもあるのかと……(笑)

モニカ・ベルッチ演じるマレーナは初登場シーンからして圧倒的なスタイルと美貌。
男は子供から大人まで、待ち伏せしてまで彼女を拝むほどです。
その反面で女たちは、自分の夫を誑かされるのではと危惧し、マレーナに対して攻撃的。
やがては男たちも浮気を疑われないために、マレーナに接したり、ましてや雇ったりなどをしなくなります。
そうして働き口のなかなか見つからないマレーナは、島で孤立してしまいます。

島に来たばかりのマレーナが颯爽と歩く姿、男に言い寄られる姿、仕事が見つからず憔悴してゆく姿……その全てをレナートは影から見つめています。
ほぼストーカーで、よく気づかれないものだなというツッコミどころもあるのですが、マレーナのことしか考えられなくなっているその一途さに泣けてきます。
子供より大人が抱く愛の方が成熟している、なんてことは全くないのだなと思います。
大人は愛した相手を自分の手に抱くことや、相手を手に入れてからのことに思いを馳せます。しかしレナートの場合、相手を見つめている”今”こそが何よりも尊い。それは達観的な愛だと感じました。

自身に落ち度という落ち度が無かったにも関わらず、人一倍人を恋しく思っていたことや、駆け引きのできない性格が災いし、島人たちに陥れられてしまったマレーナ。
美しくも悲劇性を持ったものに嫉妬や嫌悪を抱くことや、堕ちかかっているものを徹底的に陥落させようというエスカレート式の心理、1人を複数で叩く集団心理など。
戦争が背景にあることも作用しているものの、人間の心理の恐ろしさが画面に集約されていて、何ともザワザワした余韻が残ります。
しかしラストシーンに登場する果実がレナートが感じた甘酸っぱい心の象徴であるようにも思え、青春映画としての着地点の素晴らしさも感じられました。

本作を始めとする郷愁的な音楽で、不思議な映画体験を与えてくれたエンニオ・モリコーネさんにいつまでも感謝します。
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