サマセット7

美女と野獣のサマセット7のレビュー・感想・評価

美女と野獣(1991年製作の映画)
4.0
ウォルトディズニーアニメーションスタジオによる30番目の長編アニメーション作品。
監督はゲーリー・トゥルースデイルとカーク・ワイズ。

[あらすじ]
魔女に呪いをかけられ、醜い野獣と化した王子は、食器や家具に姿を変えられた家臣らと共に、呪われた城に引きこもっていた。
魔法の薔薇が散る前に、想い想われる相手が現れなければ、王子は永遠に野獣のままなのだ。
…村に住む美しい容姿と優しい心を持つ娘ベルは、城に迷い込んで囚われの身となった父親の代わりに、自らを差し出す。
野獣と家臣らは、呪いを解くべく、ベルにアプローチしようとするが、身についた粗暴な言動はベルを怖がらせてしまい…。

[情報]
ウォルト・ディズニーの死後、精彩を欠いていたディズニー・アニメだったが、ミュージカル要素を取り入れた1989年の「リトルマーメイド」以降復活。
「ディズニー・ルネッサンス」と呼ばれる黄金時代を迎える。
今作は、続く「アラジン」「ライオンキング」と共に、ルネッサンスの中核をなす作品である。

この時期のディズニー作品の歌曲とこれに合わせたアニメーションは神がかっており、今作もテーマ曲「美女と野獣」を始めまさにミュージカルとしての質の高さが好評を集めた。

アカデミー賞では、今作はアニメーション作品として初めて作品賞にノミネートされ、歌曲賞と作曲賞を受賞した。

原作はフランスの同題の民話。
作者はヴィルヌーヴ夫人と言われるが、1756年出版の簡潔なボーモン夫人版が最も有名。
現在広く出版され翻訳されているのは、ボーモン夫人版と思われる。

ストーリーは、呪いで野獣にされた男と、美しい女が、見た目の違いを乗り越えて愛を育む、というもの。
原作と今作では、登場人物の追加や、ベルの性格、人間的成長の力点が男性側に置かれるなどの変更が加わっている。

今作は現在でもディズニーアニメの最高傑作の一つと評価されており、批評家、一般層共に高い支持を得ている。
製作費2500万ドルに対して、興収は3億7000万ドルを超え、世界的なメガヒットとなった。

[見どころ]
ミュージカル・アニメーションとして、もはや芸術品の域。
やはり、名曲「美女と野獣」が最高!!!
キャラクターの魅力!!
主役2人はもちろん、家具にされた家臣たちそれぞれ魅力的。
そして、悪しき男性主義の権化、ガストン!!!
強烈な存在感を示す!!
古典的かつ王道のロマンス。

[感想]
名作!!!
良いに決まってる。

最初の村をベルが歩くシーンのミュージカル描写からして、最高。
野獣のワイルドな動き、ロウソクと時計のユーモラスな所作などなど、見ていて飽きないアニメーションがてんこ盛りだ。
細かいところでは、馬のアニメーションが凄い。

野獣との恋を、理屈抜きに納得させる、歌の威力!!!
この時期のディズニーの歌は、名曲揃いだ。

驚かされたのは、敵役ガストンの表現。
人の話を聞かない脳筋男の醜悪さを、これでもか!と詰め込んだ、見事なヴィラン・キャラクターになっている。
後の「最後の決闘裁判」のル・グリや、「プロミシングヤングウーマン」の男たち、あるいは「ザ・ボーイズ」のホームランダーといった、現代のフェミニズム作品で描かれる悪しき男性像の原型を見ることができる。
女性には一方的に要求を突きつけるだけで、気持ちに忖度せず、終始男同士でイチャイチャしているあたり、典型的だ。

古典だけに、ストーリーに特段驚きはなく、カタルシスも想定を超えるものはない。
それだけに、安定感は盤石で、安心してファンタジー・ロマンスの世界に浸ることが出来るのではないか。

結局、「美男、美女の結婚」に落ち着く、という予定調和には、当時から批判があったようだ。
ストーリー上、なぜ野獣が父親を捕らえていたのか、よくわからない部分もある。
この点は、そういう話だから、としか言いようがなく、難しいことは考えずにロマンスを楽しむのが吉だろう。

[テーマ考]
今作は、いわゆるルッキズムを批評的に描いた作品である。
言い換えると、人間は、外見でなく、中身で判断しよう、というもの。
野獣とガストンの対比が明快にテーマを語っている。
真に「野獣」なのは、どちらか、という話である。
(ガストンがイケメンかは疑問があるが、作中では、美男ということになっている、一応)。

作中でこのテーマが適用されるのは男性側だけで、女性側の「外見か、中身か」問題は触れられていないように見える。
が、野獣が真にベルに惹かれるのは、ベルの優しさに触れたからであって、容姿によるものではない、ということからすると、性別を変えても同じメッセージを受け取ることが出来るだろう。

突き詰めて考えると、容姿の美醜や好みの基準は人それぞれであり、人によっては、野獣そのままがストライクゾーンというケモナーもいることだろう。
現実に容姿にコンプレックスのある女性とイケメンが結婚している例や、その逆の例は、いくらでもある。
最終的にはマッチングの問題であり、今作の野獣のように、どうしようもない容姿にコンプレックスを抱くのはナンセンスだ、という話だ。

むしろ他に工夫できるところを工夫せよ、というメッセージを今作から受け取ることが可能だろう。
例えば、清潔さ、礼節、感情のコントロール、表情、優しさ、思いやり、相手に寄り添う姿勢、自分と合う相手を見つける努力などなど。
あらゆる努力を尽くして、それでもダメだったとしても、自分磨きの努力は無駄にはならない。
こう考えると、受け取るべき教訓はいくらでもある。

もちろん、結婚や相思相愛がゴールである必要は全くない。
今作の「呪い」は、恋愛至上主義がもたらす現代人の強迫観念のメタファー、という捉え方も面白いかもしれない。
そう考えると、ガストンやベルですら、この呪いに取り憑かれている。
一生野獣でいて、どうしていけないのか?

[まとめ]
ディズニー・アニメを代表する、異種間ラブストーリーの名作。

原作は、何度も映像化されている。
また今作の実写化映画もエマ・ワトソン主演で2017年に公開され、ヒットした。
今作との違いを比較するのも一興だろう。