TaiRa

青べか物語のTaiRaのレビュー・感想・評価

青べか物語(1962年製作の映画)
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川島雄三って失われゆく景色を描くの好きそう。

1960年代東京の現・埋立地らへんの何もなさに驚いちゃう空撮からして色んな意味で面白い。山本周五郎が浦安(劇中では浦粕)に滞在した時期を描いたものが原作。「べか」は小舟のこと。浦安の郷土博物館には『青べか物語』で描かれた時代が再現されてるみたいで、べかにも乗れるらしい。流石は夢の国の所在地。映画の序盤、先生=森繁久彌の台詞が当人のモノローグに掻き消されて何も聞こえないのが変な演出。意思疎通が測れそうになってくると段々台詞が聞こえてくる。この意思疎通の可否が結構ムズそうに感じさせてくれる、東野英治郎のジジイが最強。ずっと明後日の方向見ながら叫んでるジジイで、先生が「誰に話しかけてるんだ? あ、私に話してたのか」ってなる顔合わせ。こういうヤバい奴らが有象無象の町に何となく居着いて同化して行く。書けない作家が剥き出しの人間たちに出会って再開発される。先生が立ち会わない挿話も多く、新郎フランキー堺の初夜とか近所の床屋の夫婦喧嘩とか、そういう小噺の連続。左幸子の女中とか市原悦子のがらっぱち女房とか、女はみんな活き活きしている。小池朝雄がハマグリ泥棒してるのを追い掛ける浜辺の疾走なんて無意味に画面が豊か。左卜全の船長のエピソードは回想場面の撮影が良い。遠景の横移動でとらえた土手の上を走る初恋の女。高度経済成長で変わりゆく東京に起因するように、不能になっていく男を描いている。消えゆく景色と男の逃亡ってのが川島雄三っぽい。
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