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青べか物語のodyssのレビュー・感想・評価

青べか物語(1962年製作の映画)
3.0
【気違い部落の物語】

きだみのるの『気違い部落周游紀行』はかつてベストセラーになった書物です。
しかし、或る時点からこの本はタブー扱いされるようになりました。
「気違い」が「差別用語」とされたからです。

教科書で習うような「自由と民主主義」「近代的な個人の尊厳」とはまったく相容れない日本の基盤的なメンタリティを、現実に存在している日本の辺鄙な農村部に取材して描き出したこの本が広く読まれたのは、日本人が(というより世界のどこでも)こういう反教科書的な生き方を実際にはしているということを多くの人間が意識してたからでしょう。

ある意味、そういうメンタリティはこの「映画生活」にもそのまま生きています。

そしてこの「青べか物語」、つまり現在は東京メトロ・東西線の浦安あたりを描いたこの映画も、そうした日本人のメンタリティを描ききっているのです。

個人の所有権なんてものはないし、夫婦の貞節なんて道徳的な縛りもないしという、まだ東京湾での漁業が生業になり得た時代の営みは、今はもうなくなっているでしょうが、形を変えて、今のインターネット社会を形成しているのです。

地元の商売女である左幸子がインテリで作家役の森繁に迫るところなんか、実にいいですね。こういう役が左幸子にはよく合っているし、「据え膳」を食えない森繁の情けなさこそ、現代の都会風男性の(悪い意味での)原点なのでありましょう。
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