櫻イミト

青べか物語の櫻イミトのレビュー・感想・評価

青べか物語(1962年製作の映画)
3.5
山本周五郎の短編連作『靑べか物語』(1961)の映画化。原作は、若き日の著者が風景を気に入って一年半過ごした浦安の思い出を綴ったもの。地名は浦安→浦粕、江戸川→根戸川に変えられている。”青べか”とは、青く塗られたべか舟(浅瀬で貝を獲る小さな舟)のこと。

何よりも埋立て開発前の浦安の風景が衝撃的だった。迷路のような漁師町と遠浅の干潟のような海。本作を観ることで高度経済成長期(1955年頃~1973年頃)のビフォーアフターを感ずることが出来る。本作から22年後の1984年に東京ディズニーランドが開園する。

大きな物語はなく風土記と随筆のような描写が続く。原作の舞台は大正時代だが、町の面影は撮影当時まで続いていたとの事。地元民のエネルギーに満ちた悲喜劇の一方で、森繁久弥が演ずる主人公(著者)は第三者の立場を崩さない。ジャンルとしては先日鑑賞した「月山」(1979)と同じ”異郷もの”であり、主人公が何も行動を起こさないのも同様だが、同作の方が主人公に少なからず変化があるぶん好みだった。このあたりは文学に対する嗜好性によって違うだろう。

失われた昭和の風景が楽しめる貴重な一本。ロケーションや人々から漂う雰囲気は、つげ忠雄が描いた昭和の江戸川沿いが舞台の劇画を連想した。
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