良すぎる。
「クーリンチェ」や「恐怖分子」では、地震に先だって現れるという気象の変化がすでに起こった中で、不可避の激震を待つような緊張感をもって、絶望と向き合ったかと思いきや、「カップルズ」では、その不安が活劇との相性が良いと判明し、漫画的な熱量と映画的悦楽によって、絶望の物語が希望の終止符まで辿り着く様を描いたエドワードヤン。
そんな彼は、本作でも絶望を描いているのだが、その眼差しは絶望的でも希望的でも全くない。
本作は、徹底してノンシャランな視線を貫き通しており、その透き通った視点は、ありがちなノスタルジー映画や、子供の成長映画、青春映画を期待して観た人を困惑させるまでのものである。
それは、あたかも、一枚の写真が持つ純粋性を、映像と音が作り出す物語によって再現しようとしている様であり、そのような試みをしたところで、失敗に終わるというのは、監督はわかりきっているに違いない。
それでも、監督の、「人間を媒体に捉える」プロセスへの真摯な挑戦により、本作のような異様なドラマが出来上がった。それは、まるで人生そのものを捉えたかのよう、であるのかはわからないが、「人生をやり直すチャンスなんて必要無い。一度きりでいいんだ」というような達観性が本作に染み込んでいるのは間違いない。
