そーいちろー

ヤンヤン 夏の想い出のそーいちろーのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
4.5
映画館で初めて観た。35mmで観られる喜び。円熟味を増したエドワードヤンは、どこかかつての彼自身の作品をリミックスするかのように、台北の文教地区の高級マンションに暮らすある家族のひと夏の様子を通じ、生きるとか、人を好きになるとか、でもままならずすれちがったり、憎しみを持ったり、死ぬこととか、そういう生命の理すべてを、淡々と映し出していく。少年ヤンヤン、父NJ、娘ティンティン、そして伯父でNJの弟、と大まかに四世代の人間模様を描きつつ、始まりは妊娠をきっかけとした結婚式、終わりは葬式と、まさに揺り籠から墓場までを描く。大枠で祖母が倒れ、その終わりまでの物語であるのだが、その間に映し出されるのは、どこかシンクロしながらも少しのズレをはらみつつ、それぞれ自身が生きていく人生の思春期から壮年期までの高速写真のような風景だ。以前DVDで観た時は長いなぁ、と思ったけど、実は壮大な人生模様を描いていた、と思ったらあっという間だった。邦題も好きではあるのだが、原題の「Yi Yi(一一)」、英題の「A One and a Two 」がより本作の主題を明確に示しているように思えた。作中にはいくつも印象的なセリフが出てくるんだが、「映画の発明は人生を三倍面白くするようになった」「人は正面からしか物を見られず、後ろからの風景を見られない以上、半分しか世界を見られてない」とかがこの映画の本質を台詞でよく表しているように思えた。かつての恋人と復縁しかけたNJは一度は生き直しかけた人生を、結局は今の自分を受け入れることで、やり直すのではなく、今一度きりの人生を生きることを選択する。ほのぼのとしているようでファティって少年はリーリーって少女との出来事を通じて闇堕ちしたり、色々ありはするんだけど、そういう全てを含めて、人が生きるって事はとにかく一生懸命でしかないんだな、と思わせてくれた。まさに「一」でしかないのが、人生で、それを二倍面白くして、何故だか三倍にするのが映画ってものなのだな、と。クーリンチェとはまた異なる、エドワードヤンの金字塔でしょう。俺が好きな韓国映画「夏時間」はヤンヤンの影響を大きく受けているだろう作品で、こっちも大好き。
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