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ヤンヤン 夏の想い出のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
4.4
 アディとシャオイェンの結婚式、少しお腹の出た新郎に対し、新婦の表情はどこか冴えない。上昇するピンク色のバルーン、アディの元カノで、この結婚式に怒り心頭のユンユンが結婚式の妨害に現れる。そこにヤンヤン(ジョナサン・チャン)の姉ティンティン(ケリー・リー)が鉢合わせする。アディの姉は彼らの母親のミンミンで、夫で父親のNJ(ウー・ニェンツェン)は背広姿で、所在無さげに動き回る。式に飽きた8歳の息子ヤンヤンをハンバーガー屋さんに連れて来た父親は浮かない表情を抱えながら、今夜泊まるホテルに戻ると、エレベーターから初恋の人シェリーが現れる。三十年前に別れた運命の女と偶然の再会を果たしたNJは、ヤンヤンを息子だと紹介する。大人の事情などわからないヤンヤンはその様子をじっと見つめている。8歳のヤンヤンと高校生のティンティンを育てるNJ一家は、台北の高層マンションに祖母と妻と2人の子供と暮している。その生活ぶりは豊かだが、父親は会社で未曾有の赤字という事態を抱えていた。この急場を打開するためには、日本人のゲーム・クリエイター大田(イッセー尾形)に会うしかないと踏んだ社長は、NJに大田との交渉を命じる。だがアディの結婚式のその日、祖母が病院に運ばれる事件が起きる。

 華やかな結婚式に始まり、喪に服す葬式で幕が降りる物語は、NJ一家のそれぞれの抱える深刻な事情を描写する。自分がいない隙に祖母を入院させてしまった母親ミンミンは自らを責め、極度の神経症に陥り、山の上の精神病棟に入る。また15歳の高校生のティンティンは、ゴミの横で倒れていた祖母は自分の責任ではと思い責める。義理の母親が倒れた夜、NJは30年前の恋人シェリーとの運命の再会を果たし、まだ幼い末っ子のヤンヤンは大人たちの思惑などわからないまま、右往左往する。祖母の昏睡状態がきっかけで、バラバラになった家族の焦燥感、それぞれの年齢のレイヤーに合わせた孤独な病巣を埋め合わせるものは何もなく、登場人物たちはバラバラに孤立する。日本出張の熱海の席、シアトルに住むシェリーとの束の間の再会を果たしたNJの年老いたロマンスと、親友で隣人のリーリーの彼氏ファティとティンティンとの初恋のエピソードがクロス・カッティングされる展開が何度観ても胸に刺さる。30年経過しても流転することのない男と女、優しさと狂気、そして欲望と愛情。忍び込んだ映写室で見たスカートの中の白の下着、横軸で何度も往復する憧れの女性の水泳姿。大田ではなくEカップの小田に方向転換した物語は、『クーリンチェ少年殺人事件』のようにまたしても少年を凶行へと誘う。深夜未明に鳴る『恐怖分子』のような救急車のサイレンの音、後ろ姿しか撮らなかったヤンヤンの祖母への想いにワンワン泣いた。エドワード・ヤンは遺作となった今作で見事、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した。
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