サマセット7

平成狸合戦ぽんぽこのサマセット7のレビュー・感想・評価

平成狸合戦ぽんぽこ(1994年製作の映画)
3.9
監督・原作・脚本は「火垂るの光」「おもひでぽろぽろ」の高畑勲。
ナレーターを落語家の三代目古今亭志ん朝が務める。

[あらすじ]
昭和40年代、東京都多摩市にて、平和に住み暮らす正吉(野々村真)ら狸たちだったが、人間によるニュータウンの開発とともに森を追われ、住む場所も食料も奪われて怒り心頭、狸たちの総会を開き、開発を阻止することを決議する。
過激派の権太(泉谷しげる)は妨害工作を行い、工事従事者を何人か殺害するなど戦果を挙げるが、開発は一向に止まらない。
合戦の帰趨は、四国と佐渡に援軍を呼びに走った文太と玉三郎に託されたかに見えたが、彼らはなかなか戻らず…。

[情報]
スタジオジブリの7本目の劇場用長編アニメーション作品。

高畑勲が、原作・脚本・監督を務めた、初めての作品である。
もともとは「狸の映画」という宮崎駿と鈴木敏夫の企画に、高畑監督が起用された形となる。
高畑勲はもともと平家物語の作品化を目指していたが成らず、今作において多摩ニュータウンを舞台に「狸の平家物語」を構想したという。

三代目古今亭志ん朝によるナレーションや、ドキュメンタリー調の描写など、昭和の報道番組のような独特の語り口が全編を貫いている。

そのほか、俳優、落語家など、かなり豪華な布陣がキャストを務める。
石田ゆり子!柳家小さん!桂米朝!泉谷しげる!

ストーリーは、人やモノに化ける「化け学」を修めた狸たちが、開発工事に抵抗する様を描く。
ジャンルはアニメーション・ファンタジー・コメディ。
社会派ドラマ、動物ものなどの要素を含む。

今作は26億円の興収を記録し、「魔女の宅急便」を上回った。
ジブリ作品の中では、一般的に可もなく不可もなし、といった評価を得ており、どとらかと言うと批評家に評価されている作品のようである。

[見どころ]
タヌキたちの、どこか愉快でのんびりとした闘争が可笑しい。
タヌキが人間やモノに化けるアイデアが、色々見られて楽しい。
四国の長老たちがやってきた時は、テンションが上がる!!!
ジブリ作品の中でも、かなり社会批評性の高い作品である。
テーマ性やメッセージ性がビンビンに伝わってくる。

[感想]
へー、こういう作品だったのかあ!!
もっと可愛らしい話を予想していたが、ゴリゴリの社会派作品だ。
タヌキたちの戦いには、戦後の学生運動や社会主義革命のニオイを感じる。

環境破壊への抵抗、というのは、メタファーでも何でもなく、ストーリーの本筋そのものである。
ジブリ作品は人と自然との相剋を描く作品が多いが、これほど直球の作品も珍しい。

そんな中、どこかのんびりして愉快な狸たちの描写が、まずは、目を引く。
正吉とおキヨの(野々村真と石田ゆり子!!)の恋愛も可愛いし、化け学の特訓もユーモラスだ。
重いテーマを、のほほんとしたタヌキで描く、というズレが、今作の最大の特徴かもしれない。

四国の刑部ダヌキといった高名なタヌキたちの術は、もはや妖術アクションといった趣で、一気にテンションが上がる。
多摩に3匹が現れるシーンなど、鳥肌ものだ。
彼らを中心に据えた大作戦の描写は、その顛末も含めて、いちいち面白い。

人間をぶっ殺せ!!と鼻息荒く始まる今作の狸物語だが、歴史のいく末は我々の知るところである。
平家物語よろしく、常に作中には、滅びの予兆が響いている。
では、この狸たちは、一体どうなってしまうのか?
この興味に牽引されて、結末まで観てしまうことになる。

最終盤の宝船のシーンは、哀惜を感じさせ、なかなかの名シーンとなっている。
故郷に辿り着いた文太のセリフも胸をつく。

今作が、他のジブリ作品に比べて、そこまで評価されているように見えないのはどうしてだろうか。
色々理由はあろうが、結局、人々は、華麗に勝利し、スカッと成功する話が好き、ということなのかもしれない。

[テーマ考]
今作は、人間社会あるいは資本主義による環境破壊を、環境から追われる狸側の視点で批評的に描いた作品である。

今作において、人間たちは、環境破壊に対して、徹底的に無自覚である。
自然に対する崇敬や畏れは、個々人の中に残っていたとしても、社会全体としては、一切考慮されることはない。
ひたすら、資本主義の歯車の中に飲み込まれて、個人の意思と無関係に、止めることなく都市の周縁が拡大し、狸たちの住処は破壊されていく。

ラスト、正吉たちの選んだ選択と、その感想は、実に皮肉だ。
歯車の中に飲み込まれていたのは、タヌキたちばかりではないのだ。

今作は、人々に、自覚を促す作品、と言えるだろう。
最後のぽん吉のカメラに対するメッセージは象徴的である。

[まとめ]
ジブリ作品の中でも社会批評的メッセージが全面に出された、タヌキ・アニメーション映画の異色作。

監督の高畑勲は2018年、肺がんのため82歳で亡くなった。
宮崎駿と共に日本のアニメ界を支えたレジェンドであった。