近本光司

五重搭の近本光司のレビュー・感想・評価

五重搭(1944年製作の映画)
4.0
幸田露伴の原作に接近できたことがなによりもよかった。しかし原作のモデルとなった谷中の五重塔は、江戸の建立から二十世紀も関東大震災と東京大空襲という災厄を奇蹟的に無傷で乗り越えたにもかかわらず、1957年に放火によって焼失してしまった。この映画が撮られてからわずか13年後のことである。幸田露伴はすでに鬼籍に入っていたわけだが、五所平之助はどのように受け止めたのだろうか。いまは礎だけが残る跡地にだれか心意気のある宮大工があらたに五重塔を建てようとすることはあるだろうか。そんなことは金輪際あり得ないかもしれないと思うと、言いようのない虚しさに胸を衝かれる。