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太陽の帝国のYYamadaのレビュー・感想・評価

太陽の帝国(1987年製作の映画)
3.4
【監督スティーブン・スピルバーグ】
第10回監督作品
◆ジャンル:  
 社会派ドラマ
◆主な受賞歴
 なし

〈見処〉
①再び「第二次大戦」を描く
・『太陽の帝国』(原題: Empire of the Sun)は1987年末に米国で公開された、『カラーパープル』に続くスピルバーグ演出による、社会派ドラマ。
・舞台は第二次世界大戦下、日中戦争中の上海。上海租界(イギリス居留地)で生まれ育ったイギリス人少年ジェイミー(クリスチャン・ベイル)は、日本の零戦に憧れる13歳の裕福な白人少年。
・しかしながら、1941年12月にマレー作戦を皮切りに日英間で開戦。日本軍が上海租界を制圧した際の大混乱のなか、ジェイミーは両親とはぐれ、独りぼっちに。
・ジェイミーは、不良アメリカ人のベイシー(ジョン・マルコヴィッチ)に拾われ、生き残りをかけて窃盗を試みるが、日本軍に捕らえられ、蘇州の収容所へ送られる。
・飢えや戦争のもたらす現実に翻弄されながら、淡々と成育していくジェイミーだが、しだいに収容所の人々との交流の中に生きる知恵と希望を見出していく…。
・監督のスティーブン・スピルバーグにとって『1941』(1979)以来の「戦争もの」であるが、コメディ描写にて大失敗した教訓を生かし、本作はキャリア初の社会派ドラマとして描いている。
・とくに本作では、ジェイミーによる零戦への憧れや、日本人特攻隊との交流など、戦勝国/敗戦国を「正義」と「悪」の単純な構図に描いていない点が画期的である。
・『シンドラーのリスト』や『ペンタゴン・ペーパーズ』など、後年ではスピルバーグの得意分野の一つとなったシリアスストーリーの原点は本作にある。

②奇跡の共演!?
 クリスチャン・ベイルと山田隆夫
・本作の主人公ジェイミーは、約4,000人以上の候補者の中から選ばれた、圧巻の演技力を持つ驚異の13歳、クリスチャン・ベイル。後の演技派スターとしての片鱗が見て取れる。
・日本人キャストは、オーディションにより選ばれた伊武雅刀、片岡孝太郎、ガッツ石松、山田隆夫が務めている。いずれも出演時間は短いものの、印象的な役回り。
・とくにジェイミーが収容所に送られるシーンでは、山田隆夫とベイルのやり取りが面白い。『笑点』と『ダークナイト』のまさかのコラボシーンである。

③結び…本作の見処は?
○: 日光の陰影が はっきりした画力とスケール感は、さすがスピルバーグの出来映え。
○: ハリウッド映画初の中華人民共和国のロケ。古きよき上海の街角が再現されている。
○: 既に完成されたクリスチャン・ベイルの演技
○: ウェールズに伝わる子守歌『SUO GAN "Welsh Lullaby"』が効果的に使われ、鑑賞後にも耳に残る演出である。
▲: 勧善懲悪でなく、空腹をしのぐだけの物語にも見え、作品の構図は少々散漫。少々退屈を感じる。
▲: 「地球は円い」上海から800キロ離れた長崎原爆が見えるのは、完全なフィクション。(史実では、60キロ離れた熊本から見えたらしい)
▲: 若き日のベン・ステイラーを見つけられずも、もう一回見る気にはなれない。
×: 多くの論評とおり、アカデミー賞狙いのスピルバーグの演出が鼻につくと言われてもしょうがない。1987年度のアカデミー賞では撮影賞/作曲賞/美術賞/衣装デザイン賞にノミネートされるも、再び無冠に終わったのが納得の出来で、作品質は『カラーパープル』を随分と下回る。製作費も半分位しか回収できなかったようだ。
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