Keigo

太陽の帝国のKeigoのレビュー・感想・評価

太陽の帝国(1987年製作の映画)
4.1
スピルバーグ中盤戦。続いてはタイトルすら全く聞いたこともなかったコチラ。

基本的にあらすじも何にも読まずに観始めるので、冒頭のイントロダクションを観るまで第二次大戦のしかも日本に関わる話しだとは知らなかった。『太陽の帝国』ってもしかして...と思いながらのイントロダクションとタイトルバックのあと、賛美歌が流れ真上からの海面のカットへ。そこへいくつかの棺桶と手向けられた花が流れてくる。そしてそれを蹴散らすように旭日旗を掲げた艦隊が...
これは肩身の狭い思いをしながら観ることになるのか...?と多少身構えながらのスタート。

ちなみにスピルバーグ作品は先日観た『フェイブルマンズ』をはじめ、いくつか虫食いで先に観ている作品もあるものの、一応『激突!』から公開順に順を追って観ていて、そうすると『カラーパープル』からグッとシリアスな社会派作品の方向へ舵を切ったことが分かる。『1941』だけ配信に無くて飛ばしてるけどそれがどうやら戦争が題材のようなので、今作が初めての戦争映画ということではないみたいだけど。この方向転換はアカデミー賞が獲りたかったからだと揶揄されたりもしたらしい。
…そりゃ獲りたいよねえ!アカデミー賞!いいじゃんねえ!少なくとも僕は『カラーパープル』然り今作然り、賞狙いを理由に安易に深刻な題材を選んだ駄作だとは全く思いませんでした。

話しを戻すと、大東亜戦争開戦の直前から終戦に至るまでが、日本軍統制下のイギリス租界育ちのお坊ちゃん、ジェイミー少年(クリスチャン・ベイル)の視点で描かれる。若き日のクリスチャン・ベイル…!オーディションでこの役を勝ち取ったらしい。難しい役どころなのに素晴らしかったと思う。

アメリカ映画として中国でロケが行われたのは第二次世界大戦後初のことらしく、5,000人?以上のエキストラが出演したほか、人民解放軍の兵士が日本陸軍将兵を演じたりもしたらしい。日本軍が上海に侵略する時の逃亡のシーンの迫力、ハンパじゃなかったもんな。ものすごい人の数で…

自分みたいな勉強不足の、勝手にゆとり教育あとから後悔人間程度のおつむだと、今作がイギリス・アメリカ・中国・日本のどれかに極端に肩入れして描かれているようにも見えず、肝心のジェイミー少年もイギリス人とはいえ香港育ちで、ナショナリズムへの過剰な傾倒や挫折が描かれるわけでもなく(もちろんまだ子供だからというのもあるが)、国家間の争いや駆け引きに重きが置かれている訳でもないからなのか、純粋にジェイミー少年の視点に並走して観ることが出来た。すると浮かび上がってくるのは戦況どうこうよりも「戦争が彼にどんな変化をもたらしたか」だ。成長という意味でのプラスの変化ではなく、むしろマイナスの変化。

151分かなりの濃密な内容で全てを辿ろうと思うと何文字になるかも何時間になるかも分からないので、無理矢理に一言でまとめると「戦争が少年をどう変えてしまったか」という映画だったと思う。

子供が成長の過程で個人としてのアイデンティティを形成していくための、その礎になるようなもの、自分の母国はどこか、自分はどんな両親から生まれたか、自分が心躍るものは何か、その全てが戦争によってことごとく奪い去られていくことの残酷さ。
命からがら生き延びての両親との再会シーンがただ感動的なシーンとして描かれていないことこそ、ジェイミー少年が失ってしまったものの大きさを物語っていると思う。

映画のラストは海に浮かんでいるスーツケースを映したカット。彼が自ら海に投げ捨てたものだ。海に漂う、ジェイミー少年の大切なものがたくさん詰まっていたはずのスーツケースは、冒頭で流れてきた棺桶のように見える。

ちなみに宮崎駿の『風立ちぬ』にも共通する部分があるよなーとも思ったり。空に憧れて…



【おまけ】

あれはいつ頃だろう、小学生ぐらいか?
『エンタの神様』で毎週のように、はなわが歌うガッツ石松伝説を聞いてたのに、ガッツ石松がスピルバーグ作品に出てるなんてそんな伝説知らなかった。しかも結構いい味出してたし!

スピルバーグ伝説を形作る1本を観たのと同時に、ガッツ石松伝説をまた1つ知りましたとさ。とは言っても、他のガッツ伝説きれいさっぱり忘れちゃったけどね〜!
でもガッツ石松ならきっと、こう言ってくれることでしょう!

「OK牧場!」
Keigo

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