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なまいきシャルロットのnetfilmsのレビュー・感想・評価

なまいきシャルロット(1985年製作の映画)
3.9
 ジュークボックスに入れられたドーナツ盤もモーターボートの快楽も全てはあらかじめ終わりの来るもの(幼年期の終わり)として想起される。夏のヴァカンスに沸く7月のパリでは、明日から夏休みというその日、シャルロット(シャルロット・ゲンズブール)は水泳の飛び込みに失敗し、未来を憂う。同じ頃、プールの脇にそびえる体育館では同い年の少女による可憐なピアノ演奏が繰り広げられていた。隣り合わせで繰り広げられる栄光と挫折の組み合わせは、ここではないどこかを夢見るシャルロットがただただ夢想した仮初めの世界に過ぎない。だが13歳の彼女はクララ(クロチルド・ボードン)との出会いに思いもしない天啓を得る。ボーイ・ミーツ・ガールではないガール・ミーツ・ガールな物語は13歳の少女にとって必然的な物語となるものの、シャルロットはクララとの出会いの為に幾人かのピュアな人々を巻き込んでしまう。近所に住むルル(ジュリー・グレ)の純真無垢な眼差しはもちろん、退役軍人であるジャン(ジャン=フィリップ・エコフェ)を巻き込まねば完結しなかった物語だが、シャルロットに特別な感情を持つ彼らを巻き込んだことで物語はエモーショナルな感情を宿すのだ。

 生まれた時から母の居ないシャルロットの人生は不幸に映る。大人でも子供でもない微妙な時期は反抗期が差し掛かり、それゆえシャルロットは父とも兄とも微妙に食い違うのだけど、実際に何か行動に移すことは出来ない。既存のコミュニティに属することを拒みながらも、だからと言ってこの地で暮らすにはコミュニティに属さなければならないことも熟知している。空気を読むのに長けた少女の空気の読めない所業。家族を愛しながらも母の死の影響で絶妙な着地点を見つけられなかった少女はクララとの出会いにここではないどこかを夢見る。13歳の少女には抗うことの出来ぬ残酷な経済格差など把握できないだろう。シミったれた親兄弟を想いながら彼女が夢想する世界は、決して彼女が辿り着くような安直な世界ではない。然しながら天才少女と目されるクララの世界もあらかじめ運命が決められた雁字搦めの世界に映るのだ。退役軍人のジャンの人物造形にスコセージの『タクシー・ドライバー』のトラヴィスの人物造形が真っ先に思い浮かぶ。フリードキンの『エクソシスト』に巻き込みながら、微妙にシンクロしない2人の想いは、クララを前にしてすれ違って行く。シスターフッド的な奇妙な連帯と噛み合わぬ感情、ラスト15分の意外な人物の叫びに思わず涙腺が緩む80年代思春期映画の名作である。
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