真一

台風クラブの真一のレビュー・感想・評価

台風クラブ(1985年製作の映画)
2.1
 1980年代日本のおぞましい人権意識を、図らずも浮き彫りにした作品。腐った大人社会の扉の前で立ちすくむ中学生たちが、台風が近づくにつれ、妙なスイッチが入って暴走するストーリーです。複数の女子生徒が男子をプールで虐待したり、男子生徒がクラス女子に対してレイプ未遂を起こしたりする場面が続く。しかも本作は、そうした犯罪を、非人道的行為として取り上げているとは言い難い。むしろ面白おかしく伝えている。製作スタップが無意識のうちに醸し出すセクハラ意識やパターナリズムまで映り込んでいることも含め、本作品は「あの時代の空気」を生々しく再現していると思います。

 舞台は、長野県の田園地帯にある中学校。無責任な指導体制の下、夢や希望を見いだせない3年生たちは、それぞれ得体の知れぬマグマをたぎらせていた。そんなある日の夜、プールサイドでたむろしていた女子5人が、こっそり泳いでいたアキラを発見し、パンツを脱がせた上で溺れさせてしまう。アキラは一時心停止状態になったが、みんな他人事のように傍観している。

 子どもたちのマグマ沸騰に拍車をかけたのが、数学教師の梅宮(三浦友和)だ。梅宮は授業中、恋人の両親に「わが子をオモチャにしている」と怒鳴り込まれ、生徒たちに動揺を与える。だが、説明を求める美智子(大西結花)らを相手にせず、一蹴。そんな中、長野県に大型台風が近づき、生徒たちの心も、空模様に呼応するように、異様な興奮状態に陥っていく。クライマックスは台風直撃の夜だ。無人の学校に残ったみどりや美智子ら数人は、何かに取りつかれたように、体育館の舞台で、下着姿になって踊り狂う―。

 映像は見事だ。戦前に建てられたと思われる木造校舎からは、体温のような、生々しい湿気が感じられる。中学生同士のちょっとしたやりとりも、極めて自然で、呼吸音や鼓動まで伝わってきそうだ。雨の中で子どもたちが、当時の大ヒット曲「もしも明日が」(わらべ)を口ずさむ場面は、この時代を過ごした人々の心に残ると思う。
 
 だが、それでもなお、本作品には強い抵抗を感じる。本作品は、思春期の少年少女をありのままにスケッチしたように見せながら、その実、女子生徒たちの半裸姿を「売り物」にしている印象がぬぐえないからだ。レイプされかかった少女が、まるで性に目覚めたかのどこく、破られた制服姿でダンスするのも理解に苦しむ。女子グループに辱めを受け、死にかかったた被害少年を「ラッキースケベ経験者」として描いたくだりも、ひっかかる。

 いわゆる「Z級作品」の中には、レイプ事件の告発映画を装いつつ、実際はレイプシーンをエロネタとして観客に提供しているものもあるらしい。そうした世も末の作品に通じるものが、あるような気がする。リアリズムに徹するふりをして、そうした場面を下世話な目的に流用するのは、エログロをド直球でぶちかますのと違って性悪だとの指摘があるが、その通りだと思う。映画「台風クラブ」は、そうした点も含めて「80年代的」と呼べるかもしれません。
真一

真一