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台風クラブの海のレビュー・感想・評価

台風クラブ(1985年製作の映画)
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この唇から、ただなんとなく出てくる言いなれた言葉が、あのときは涙みたいだと思った。何もかもわかったような顔して話すことに、「そうだよね」って言うときあなたの友だちでいたくて、「そんなはずない」って言うときあなたのおとなでいたかった。冷蔵庫で冷やしてたのど飴を口の中であったかくして溶かしながら、なんかこんなふうに気持ち悪いのに身を任せたくてそうしたことが前にもあった気がした。何にもうまくいかなくて、うまくいくためにできることもひとつもなかったのに、いつかうまくいくよねと呟いて友だちの肩に頭をあずけた夜の公園、土砂降りなのに傘もささずに、意味のない声を発しながら、転んで腕をつかんで抱きあって頬に耳がふれた放課後のグラウンド、あのころ、世界はダメなんだって思ってて、だけどわたしたちだけは平気だよねって思ってて、今だってたぶんおなじように思ってたくて、でもちがうのは、今はもう、ダメでもダメなまま続いていくことを知っていて、あなたたちのためにわたしたちがダメなことを隠して嘘をついてあげないといけないことを知ってる。おとなになってしまった、いつのまにか。必死で両脚を踏ん張ってそこにいるこの子たちに向かって、「なんでこんなになっちゃうの?」って困るようなおとなになってしまった。生きたくて死のうとしてしまうこの子たちに向かって、「死にたくても生きて」って言うようなおとなになってしまった。深くて届かないくらいの暗い闇をたずさえたこの子たちに向かって、「あなたは光だ」って、その小さな肩に触れて語るようなおとなになってしまった。世界をあきらめる、このやさしい心で、そうだよこの心がやさしすぎたから世界をあきらめるしかなかった。きいてよ子どもたち、おとなになったらおとなの気持ちしかわからなくなるから、おとなになったら重たい体でしか裸にはなれないから、台風を待てなくなるから、あるかどうかもわからない未来に媚び売って生きていくしかなくなるんだから、どうかかわいいままではいないで。いつか子どもじゃなくなっても大丈夫だから、いつかおとなになることもこわくないから、生きているかぎり、あなたは踊れるから
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