半兵衛

桜の森の満開の下の半兵衛のレビュー・感想・評価

桜の森の満開の下(1975年製作の映画)
3.1
篠田正浩監督×坂口安吾原作といういかにも文芸映画という組み合わせだけれど、実際は岩下志麻VS若山富三郎というヘビー級俳優のぶつかり合い演技を楽しむ作品。そして亭主が監督だからなのか悪女・岩下が終始リードして、粗野で無学な盗賊若山が彼女に振り回されるというスタイルになっているのが意外に面白い。

あまりの美貌に亭主を殺害していくかっさらった女性が魔性の悪女で、都会暮らしに慣れた彼女のわがままに付き合っていくうちに盗賊が田舎で自由気ままに暮らしていた自分のアイデンティティと向き合い悩んでいくストーリーも見所。そこには文明的物欲が多く溢れている都会生活と、自然的なライフが楽しめる田舎暮らしという相容れない二つのアイデンティティが感じられこの二つを両立させることの難解さが映画を通して伝わってくる。

ただ肝心のテーマである「魔物と呼べる妖しい桜の美しさ」が表現できたかというと難しいかも、小説では文章で表現が可能だがそれを映像にするとどこか距離感が滲み出て画面は綺麗でもクレイジーな妖しさが今一つ感じてこない。ラストのオチも舞い散る桜の花びらは美しいけれど、あまりにも過剰すぎて芝居になってしまっている。

それでも自分は無敵だと思っていたら男が美女の誘惑により自分の基盤を見失い崩壊していくファム・ファタールとして見ると味わい深い。

昔話に出てきそうな盗賊を完璧に表現する若山富三郎の名演も最高で、彼の持ち味である一流のチャンバラ技術が無敵の剣豪っぷりに説得力をもたらす。そして若山と岩下夫婦に遣え、彼らとは違う第三者としての視点を持つ下働きの伊佐山ひろ子の存在が映画に奥行きをもたらしている。
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