ふうこ

クレイマー、クレイマーのふうこのレビュー・感想・評価

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
4.8

凄い。感情がぐわんぐわんと揺さぶられる105分間でした。さすが名作と謳われるだけある作品です。感服。

夫への不満が溜まりにたまり、ある日突然息子も置いて家を出たクレイマー夫人。残された父親と息子ビリーが心を通わせていく過程と、ビリーの親権を巡るクレイマー夫妻の裁判を描いた作品。

「子供を置いて家を出るなんて死んでもできない」と私の母は言います。「子供たちと離れて暮らすなんて、私は死んでしまうに違いない」と。母のそんな言葉を幼い頃から何度か聞いて育った私としては、初めメリルストリープ演じるクレイマー夫人に対する違和感が隠せませんでした。ビリーを、親権を、返してほしいと再び姿を現した時には憤りすら感じてしまいました。
でも。違うんですよね。考え方や生き方、価値観なんていうものに正解なんてなく、他人には解らない当人の意思がある。そもそも私の母は、クレイマー夫人が言うところの「幸せな妻」であり、母自身も「でも人によっては子供を置いていかざるを得ない状況だってある、それは十分理解している」と言っていました。そして私自身に関しては、勿論結婚をしたことがありませんし、子どももいません。ましてやまだ半人前で、クレイマー夫人の心情の半分も理解できていないでしょう。だから外野の私がクレイマー夫人の行動を批判するなんて以ての外、憤りを感じることすらまた違うはずなんです。

だから、しっかりと、考えてみる。クレイマー夫人(ジョアンナ)の立場で、クレイマー氏(テッド)の立場で、そして息子ビリーの立場で。
そんな、考えれば考える程、誰も悪くないのかもしれない状況というのは、観る側の心を非常に掻き乱し、揺さぶるのです。

ジョアンナはビリーをそばに置きたい。テッドもビリーを手放したくない。でもジョアンナとテッドは今更やり直すことなんてできない。ビリーにとってはジョアンナもテッドも、どちらも大切な親なんですよね。まだ幼いビリーの心情を思うと特にやりきれません。両親が珍しく大喧嘩をした夜、もしも万が一ふたりが離婚してしまったら…だなんて布団の中で大泣きした幼い記憶が蘇ります。

ダスティンホフマン、メリルストリープ、またビリー役の男の子も、あまりにも素晴らしい演技力で、まるでクレイマー家の裁判の行方を本当に見守っているような錯覚をおぼえます。だから尚更、感情がぐわんぐわんと揺さぶられました。

なんとも支離滅裂な文章ですが、自分が結婚してから、親になってから、また観てみたいと思いました。この作品の見方、印象がどのように変わるのか。若いうちに一度観れてよかったです。

あのシーンで、ジョアンナとビリーは一体何を話したのでしょう。それをすべて私たちに託す作りもまた良いなと感じました。
ふうこ

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