菩薩

ポー川のひかりの菩薩のレビュー・感想・評価

ポー川のひかり(2006年製作の映画)
3.5
本来であればこれがオルミにとっての最後の劇映画になるはずであった(と言いつつバリバリ撮ってる、ケン・ローチみたいだ)らしいが、そりゃそうだ、この作品は「全てを捨てよ」と我々に訴えてくる。反知性、反権威、何より反宗教、約束された将来も、裕福な生活も捨て、川のほとりでひっそりと生活を始めた彼の周りにはいつしか自然と人が集まり、語らいが生まれる。知性は生活の為に、権威はその保護の為に、宗教はそれを豊かにする為に、「キリストさん」とのあだ名を付けられた彼は神として彼等を見下ろすのではなく、彼等と同じ目線に立ち新たな思考を始める。彼の言わば神に対するテロとも言うべき行いは、視力を失えど書物に齧り付く恩師を解放する行為でもある。知性の行き着く先が実存主義かつ単なる虚無でしかないのは本当に「あぁ…」と溜息が出るが、監督の意図は破壊では無く修復にあるのは観れば分かる。お茶目な寓話性の裏にはかなり過激で露骨な批判精神、ただこの作品で全てを語り尽くせなかったからこそこの先に二本の作品があるのだろうし、それ程に現代社会の病みを実感する。
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