寝木裕和

他人の顔の寝木裕和のレビュー・感想・評価

他人の顔(1966年製作の映画)
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アバンギャルドな設定、社会的にタブーと据えられそうなテーマに切り込んでいて、演出なども実験的だ。(とくに病院内のシーン。)

けれど、あるシーンで思わず吹き出してしまった。

事故で顔が変わってしまい、それに乗じて京マチ子演じる妻を誘惑した仲代達矢演じる主人公が、「え…!俺だと知っていた!?」と曰う場面。

しかし、なぜこの描写が滑稽に見えてしまうのかと考え直すと、現代に生きる我々が、「顔を着替える」ことに慣れてしまっているからではないだろうか。

例えばSNSや、インターネットでのちょっとしたコメント、見知らぬ誰かと繋がっているのが常態化している現代では。

「顔を着替える」。
すなわち、どのフォルダーの人と接するかによって、「自分自身の設定を変えること」。

今よりもっと、「自分としてのアイデンティティ」が重要だった時代の、自分が自分で無くなってしまうことへの恐怖心の大きさ。

劇中たびたび挿入される武満徹のワルツが作品全体に独特の雰囲気を醸していた。
寝木裕和

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